思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

『流浪地球』


劉じきん
☆☆☆☆★
早川書房

『流浪地球』☆☆☆☆
大雑把に言うと、太陽が爆発する予測から、地球を移動して回避する。解説には『妖星ゴラス』と『地球移動作戦』が挙げられているが、噴射を数回に分けて次第に離心軌道に移るところ、自転を止めることによる環境のダイナミックな変化など、ハードSFらしいところが醍醐味。一方では、巨大な推力を生み出すエンジンについてはほぼスルーする(岩石を投入しているので、質量を変換する技術がある?)など、中編ならではの割り切りも潔い。地上は大変なことになるので、人類は地下に住み、暴動が起こるあたりは『三体』に通じる、というより、本作のどの作品も、総決算的に同作に取り入れられている感じ。

『ミクロ紀元』☆☆☆☆
タイトルから内容が想像しづらいが、冒頭の部分だけでショート・ショートにしたら、クラークの『太陽系最後の日』にも比肩する傑作になっていたかも。五万年ぶりだかに恒星間探査から帰ってきた主人公が、荒廃した地球の変化を目の当たりにする。仮想空間だと思われていた描写にも、しっかり意味があった種明かしには、センス・オブ・ワンダーがビシビシ感じる。まあ、ミクロである理由は十分だが、現実的に可能かどうかは、例によって軽く流している。

『呑食者』☆☆☆☆★
惑星を包むくらいの超巨大な宇宙船で、その資源を吸い尽くす種族「呑食者」が、地球に迫る。このへんの豪快なスケールは、『三体』に通じるし、なんとなく『トップをねらえ2!』とかを連想した。エイリアンとの対話の中で、彼らの起源が明かされるが、ちょっとここは力技すぎて、逆に世界観を縮めてしまっているかな……。

『呪い5.0』☆☆★
インターネット上のウィルス「呪い」のコードを書き換えて、有形無形の被害が拡大する様子を描いたもの。作者じしんもモブ的に登場する、ブラックユーモア・コメディとのことだが、ドタバタものとしては笑えないなぁ。理系の人がコメディを書くとこうなる、という感じか。

『山』☆☆☆☆
タイトルのセンスはクラークっぽい。これまた、巨大な宇宙船がやって来ると、その重力で、海面が山のように隆起する。その高さは9000メートル。その「山登り」の様子は、ロバート・L・フォワード『ロシュワールド』のようで、高校レベルの物理知識があれば予想できるが、やはり面白い。宇宙人の正体については、やっぱり自分から語ってくれるのは、こう続けて読むとワンパターンに感じるが、まあ仕方ないか。その岩石世界ともいうべき出自の宇宙人のエピソードは、ハル・クレメントみたいで面白いのだが、海の山登りとの関連は、ちょっと薄いのが惜しい。