思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

『大人の鉄道趣味入門』池口英司
☆☆☆☆
交通新聞社

いわゆる鉄道オタクの世界を紹介した本とは趣を異にしている。
眼目は、あくまでも定年後世代へ向けた、いわゆる出戻り組への今昔の比較論という側面が強いことだ。
類書にはあまりなかった要素として、鉄道模型の紹介が興味深かった。欧米では「キング・オブ・ホビー」と言われているそうな。
少なくとも、五十代以上で鉄道に興味がある人には必読の入門書と言えよう。

ジェリーフィッシュは凍らない』市川憂人
☆☆☆★
東京創元社

文庫の帯で興味を引かれたのだが、読み終えてみれば、これはネタバレじゃない?まあ、それを見ていなくても、ある程度以上にミステリを読んでいる人なら、「あぁ、これはあの名作のオマージュだな」とピンと来るのかもしれないが……。
事件の始末・全容は半分くらいで終わってしまい、後は捜査編と解決編、という感じの構成。そこまで複雑な事件でもないが、事細かに独白してくれるのは、警察相手にはちょっと芝居がかった構成かな……と感じた。
また、特に警察パート(クローズド・サークルでもないのに、二人しか捜査していない)で、女警部と日本人部下(こいつの立場もよくわからん)の人称がはっきりしないのも気になった。
トリックの細部まで完璧に推理しないと気がすまないド本格マニアか、本格ミステリー全般にそこまで馴染みながない人が最も楽しめるのでは?
本作の特徴である、80年代のU国(アメリカのことだろう)を舞台にし、ジェリーフィッシュなる「真空」気球というフィクションが活かされた内容かというと、少々疑問。ある意味ではSFミステリーと言えるのだが……。また、気球が舞台の本格ミステリとしては、『見えない精霊』(曖昧記憶)があるが、そちらとはだいぶ毛色が違う。あちらは地味なのに対して、本作のほうがあちこちはっちゃけて若さあふれるというか、新本格っぽい。

以下、ネタバレ

大小かつ種類もさまざまなトリックが組み合わされたが故の、長い解決編。物理トリックのメインは、想定の範囲内だったので、そこまで驚きがなかったのが評価が上がらなかった要因。複雑かつ精緻なトリックというべきか、私のようにめんどくさいと見るか……。
意味ありげな日本人刑事に特に何もなかったりという件も。

『怪談のテープ起こし』三津田信三
☆☆★
集英社

ホラー短編集の合間に、作者と編集者のやりとりによる舞台裏の描写を入れて連作っぽくしたもの。
『屍と寝るな』が最もミステリ度が高いが、怖さも最も少なく、総じてあまり怖くない。
結果的に、ホラーファンにもミステリファンにもオススメしづらい印象。
同じ作者でももっと怖い話はあるので。

13デイズ
☆☆☆★

キューバ危機についてはその教科書的なこと以外、ほとんど知らないので、勉強のために観てみた。
まずは、編集のテンポがいいので、グイグイ乗せられてしまう。2週間を2時間半にまとめるので、必然的にそうならざるを得ないのかもしれないが……。
ただ、時々白黒になる意味はよく分からなかった。演劇で言えば舞台転換のシーンのような感じではあったが……。テレビで映像が残されているシーンってこととも言えなさそうだったし。映画的なメリハリ効果もなかったし。どうせなら、冒頭のケビンの家族シーンと最後の危機が回避された後だけカラーで、どうなるか分からない真ん中はモノクロ、とかにすれば良かったのに。
主役のケビン・コスナーが良くなかった。実在の人物は独善的なブルドーザータイプだったのを、家族思いのマイホームパパ風のシーンを入れることで良く見せようとしているとしか思えなかった。要するにいけすかない奴。ケネディ大統領は別格としても、ケビンの相棒の補佐官(役職は違うかも。覚えられないので)のほうが遥かに好感が持てた。
主目的である状況の経緯。キューバソ連が中距離ミサイル搬入&設置、米国の対応はキューバのミサイル撃破か海上封鎖か、ソ連への情報ルートを使ったソ連首相の真意確認と情報そのものの真偽、ミサイル撤去の対価……。それらの背後には、最悪のシナリオとして、ソ連のベルリン侵攻、米のキューバ侵攻、ソ連の核ミサイル攻撃、米の反撃、という第三次世界大戦の危機があってこそのキューバ「危機」である、ということだ(もちろん、それも劇中で説明してくれる)。ただ、オーブニングはともかく、何回も核実験の映像がインサートされるのはダサダサ(そのうち1回は劇中でリアルタイムであった核実験の表現であるにせよ)。せめて危機感が最高潮に達した時の悪夢的ビジョンとして1度だけ出すなら良いと思うけど。
大統領命令が全軍に完全に行き渡っていなかったというより理解されていないことにより、危機の最中にも誤射があったり、核実験があったりしたことも面白い(恐ろしい)。
ミリオタ的には、当時の航空機がいろいろ出てくるのが見所。ただし、政治が基本なので、どれも映るのはちょっとだけ。時代的にしょうがないにせよ、兵器的には主役級と言っていいU2のCGがもうひとつだったのは残念。アクションシーンもあるが高高度シーンだけなんだから、大型ミニチュアのほうが良かったと思うけど……。実際にカメラ部分のアップは実物大セットがミニチュアでしょ。
私的に1番グッと来たのは、駆逐艦の臨戦態勢シーンで、サイドワインダーか何かをランチャーにセットするカット。
国際謀略ものとして、実際に話ができる米国内のスパイや大使だけが登場し、ソ連首脳が一切出てこないのも良かった。いわゆるホットラインも当時はなかった(『沈黙の艦隊』のせいで現在はあると思っているが、実は現在もないかも?)んやね。
キューバ危機をソ連から描いた映画も観てみたいが、まあ無理だろうなぁ……。

『眼下の敵』
☆☆☆☆

安定感ある画面とテンポで、いきなり引き込まれた。日常(非戦闘時)から戦闘まで、大袈裟に言えば、戦艦のすべてが描かれている。スクリューシャフトらしき部屋なんて初めて見たし、爆雷の深度調節ダイヤルとかも興味深かった。まあ、古典的名作だから、艦船ファンの基礎知識なんだろうけど。
対するドイツUボート側は、100パーセントミニチュア特撮だが、水中シーンでは、それを感じさせないリアルさ。同じくミニチュアの米戦艦との絡みの必要上描かれた水上シーンではミニチュア感丸出しになってしまうが……。
ストーリーは、ほぼ全編に渡って、米戦艦(駆逐艦?)とUボートのバトルを、邂逅から戦闘終了後までだけ。司令部との通信でも、司令部そのものの場面は一切描かれない潔さ。余談ながら、外部が一切見えない潜水艦の司令室だけのセットで舞台劇の公演とか、インディーズ低予算映画、見てみたいなぁ……。
死傷者もあまり出てこない。序盤、先制攻撃の時に自分のミスで米兵が指を落とす怪我をして以降は、クライマックスの決戦まで出てこないのだ。映画のほとんどの部分は、逃げきろうとするUボートと機会を伺いつつ援軍の到着を待つ、両者の心理戦。そのストイックさも軍事マニア必見の要素。
実物の戦艦を使って撮影したであろう米軍艦は、艦上も艦内も空撮も重厚そのものの。艦船マニアでない私が観てもヨダレもの。真面目は爆雷の水柱が船尾で次々と上がるシーン。現在の目で見ても迫力満点。
なお、『沈黙の艦隊』で陰に陽に本作へのオマージュが捧げられていたことも発見だった。

『シンクロナイズド・モンスター』

☆☆☆☆

まず驚いたのが、(少なくとも登場人物的には)ギャグではなく、シリアスな話である、ということ。てっきり『』みたいなハチャメチャなコメディかと想像していたので。
上京してうまく行きかけたものの、ひょんなことから失敗した結果、酒に溺れたのか、酒好きを拗らせて失敗したかして、故郷に戻った主人公(アン・ハサウェイ)が、朝の8時5分に近所の公園に行くと、何故か韓国にその巨大コピー怪獣が数分だけ出現する、という物語。
こう、あらすじを書いていても「なんやそれ?( ´Д`)」と思うが、実際にそうなんだからしゃあない。終わってみれば、ちょっとイタイ日本の日本の映画でいかにもありそうなストーリー。
途中までは、青春の挫折、みたいな群像劇として、それなりにしっかりした演出だったのに……。SF設定的には穴だらけで、『怪物はささやく』のほうがまだまし、というレベル。あちらは幻覚、という余地が多分にあるが、こっちは全世界が目撃し、建物や人的被害もあるしね。邦題も『怪獣ガール』とかで良かったんじゃない?
クライマックスからオチにかけても、子供向けアニメか?という浅薄さ。
目も鼻も口もデカイ、髪もたぶんカツラ、というアン・ハサウェイが好きなら観ても損はしないんじゃない?という感じ。脇役も含めて、役者陣の演技も総じて良いし。

以下、ネタバレ

いったいどんな理由で、主人公と幼馴染みのオスカーの二人だけが韓国で巨人(片方はロボットなので)として実体化するのか、幼少時に工作を潰された怒りのエネルギー、なんて本作の説明は、到底納得できないが、そこは百歩譲るとしよう。限定的に異世界への扉が開く、というのはファンタジーでは定番なので、その亜流とカテゴライズできるから。
主人公を助けた級友が二人続けて現れた男への嫉妬から狂うのか、サイコパスの本性を現したのかは不明だが、終盤は単なるサイコ野郎から逃げる映画になってしまう。私的には何故か『コレクター』を思い出したが。
そいつをやっつけるのと、怪物現象の謎解きと収束が一体になっているのは、脚本として美しいとも言えるが、主人公以外の登場人物にも感情移入して観ている人からは、都合良すぎるとしか思えないのでは?
サイコと言えば、終盤にオスカーが幼馴染みの一人をヤクをやっているとなじる場面があるが、それが事実なのか、気違いっぷりを表わす演出なのか、判断材料がないのも難点。室内で巨人花火を打ち上げるシーンだから、後者だとは想像できるのだが……。好きなキャラだったので、退場は残念だった。
最大の残念ポイントはクライマックス。韓国まで行って、目の前にいないオスカーを捕まえられるのは百歩譲って良いとしよう。
怪獣の手で人間を潰さずに捕まえられる握力調節ができる、というのも譲ろう。
捕まえたオスカーを、いったいどうするのか。握り潰すのか、食べるのかと期待したら、なんと放り投げる。なんじゃそりゃ?と、何か既視感があると思ったら、動画レビューでピッタリな比喩があった。そう、バイキンマンの最後「バイバイキーン」である。これは残酷なシーンを描くことで、主人公の印象を悪くしたくないという「逃げ」でしかない。リアル志向の世界観なので、オスカーのあの後は、木の枝で皮膚を裂かれ、地面に叩きつけられて、全身骨折。頭蓋骨が割れたり、骨が飛び出たりするはずなのだ。そういうのを見せないのが、日本の緩い映画そのものの悪癖そのまんま。どうせ見せないなら、踏みつけて足を上げないだけで良かったんじゃないの?
ラストも、『魔女の宅急便』的な成長があっても良かったのかな……。となると、主人公も中高生にするのがベストだったのに、アン・ハサウェイが主演したかったせい?

『帰ってきたヒトラー』

☆☆☆☆
北京原人』みたいな単なるタイムスリップものかと思いきや、ポリティカル・フィクションの佳作だった。
ヒトラーのそっくり俳優を実際に街中でゲリラ撮影し、政治や歴史問題について意見を聞いたり、議論をふっかけたりする。セミドキュメントであることは、街中の映像が荒くなることで推測できる(これも計算のうちかも)。
本作のテーマは、過去の人物のカルチャーギャップを描くのではなく、ヒトラーという強烈な触媒を用いて、民主主義とは、政治とは、というテーマを問うものなのだ。ある意味、『聖おにいさん』と似たコンセプトかも。
ドラマ的クライマックスで、ユダヤ人問題に触れるが、これも現代の基準(ポリコレ)に逃げないのが良かった。本作は、歴史ものとして、終始フェアに作ってあると思う。
終盤で、メタ構造が出てきて、ある種の夢オチか?とがっかりしかけたが、そうはならなかったのが良い。ヒトラーではないほうの主人公の扱いの酷さは、さすがドイツ(ヨーロッパ)映画(^_^;)