思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

2012-01-01から1年間の記事一覧

『ジークフリートの剣』冒頭、老婆の占いによる予言が、いついかなる形で実現するのか?を描いた。途中まで気づかなかったが、『トスカの接吻』で瞬一郎によって語られる、彼と藤田との出会いを描いた前日譚的エピソード。作者の作品中、最も本格ミステリ度…

『順列都市(下)』グレッグ・イーガン ☆☆☆☆ ハヤカワ文庫SF初読時よりもかなり理解できた(初読時がさっぱりだっただけなのだが)。 本作を理解するには、映画『マトリックス』三部作、『インセプション』、『ダークシティ』を見ておけば良い。本作を理解す…

『順列都市(上)』グレッグ・イーガン ☆☆☆★ ハヤカワ文庫SF再読。やっぱり手ごわい。イーガン作品は、ごく冒頭にやたら専門用語を連発するので、本作でも化学用語の連続には参った。それを過ぎれば、ベタな陰謀小説になるので、ストーリーは分かりやすくな…

『銀河英雄伝説(1)』田中芳樹 ☆☆☆☆ 創元SF文庫当時画期的だった週刊OVA(いまでもなお、空前絶後の偉業かも)で知っていた『銀英伝』だが、いかんせん長いし、ほんとに面白いか懐疑的だったので今まで避けて来た。 読んでみると、ちゃんとSFしてるし、政略…

『蒼林堂古書店へようこそ』乾くるみ ☆☆☆ 徳間文庫14の短編からなる、日常の謎ミステリー。 マスターが謎を解き、若い美人がいるなど、どう見ても鯨統一郎の『邪馬台国はどこですか?』シリーズを意識しているのでは?ただし、中身は『9つの殺人メルヘン』…

『密室蒐集家』大山誠一郎 ☆☆☆★ 原書房1937年から2001年までを舞台にした密室殺人事件(連作)短編集。どこからともなくやってきて、真相を推理したら消えるところは、大山版『安楽椅子探偵』というところか。『柳の園』☆☆★ Eの字形の校舎っていうのと、高…

『青い星まで飛んでいけ』小川一水 ☆☆☆★ ハヤカワ文庫JA『都市彗星のサエ』☆☆☆★ 太陽電池パネルをメインにして彗星に都市を作るというのは、あまりにもエネルギー的に乏しいんじゃないだろうか…?それはおいておくとして、少年と少女がそこからぬけだそうと…

『エコール・ド・パリ殺人事件』 ☆☆☆☆ 講談社ノベルス20世紀初頭、フランスで起こった美術史的分類でいうところのエコール・ド・パリ。私的には美術史もかじっているのだが、ほとんど知らなかった(^_^;)もちろん、ローランサンや藤田嗣治など、顔と作品が頭…

『荒野に獣慟哭す(下)』夢枕獏 ☆☆☆☆★ 徳間ノベルズまさに描き切ったというにふさわしい大作。 進化あるいは変態というテーマに、ジャングルでのサバイバル、そして作者お得意の格闘技など、全てを詰め込んである。 宿敵・薬師丸法山を倒し、京子を救い出し…

『未来医師』フィリップ・K・ディック ☆☆☆ 創元SF文庫突然未来にタイムスリップさせられた医師パーソンズが遭遇するサスペンス劇。解説にあるように、そんな高尚な作品ではなく、ジュブナイルものようにテンポよく物語は進んで行く。 個人的には多世界解釈…

『ぼくらは都市を愛していた』神林長平 ☆☆☆★広い意味ではミステリーSFと言えるだろう。2卵生双子のそれぞれの物語が交互に語られるが、一方は「情報震」なる現象が引き金になって人類絶滅寸前の世界で孤軍奮闘する舞台の隊長、かたや疑似テレパシー能力を埋…

『専守防衛』清谷信一 ☆☆☆☆ 祥伝社新書タイトル通りの内容だが、裁判官と民主主義、警察官僚が防衛省を支配している(内局のこと)、国家警察(FBI)を作れ、海上保安庁を国家保安隊にせよ、など幅広い。「自衛隊の衛生兵に当たる「救護陸曹」は救急隊員や看…

『さよならダイノサウルス』ロバート・J・ソウヤー著/内田昌之訳 ☆☆☆☆ ハヤカワ文庫SF再読。原題の直訳は328ページにあるように『ひとつの時代の終わり』読み終えて内容から意訳するとこの邦題でもほぼ正しい。とにかく初期のソウヤーはアイデアてんこ盛り…

『裂けた岬 ヒカリゴケ事件の真実』合田一道 ☆☆☆★ 恒友出版戦時中の北海道知床岬で、真冬に遭難した軍属の船長が、たったひとり生還した。 奇跡の神兵と讃えられた彼だが、彼が避難していた小屋から血痕が、小屋の近くから箱に詰められた人骨が発見される。…

『トラップ・ハウス』石持浅海 ☆☆☆ 光文社トラック・ハウスならぬトラップ・ハウスならぬトレーラー・ハウス(要するに大型のキャンピングカー)内に閉じ込められた卒業間近の大学生数人が、次々襲い来る日常的な道具を使ったトラップと対峙する。 いかにも…

『ソリトンの悪魔(上)』梅原克文 ☆☆☆★ 朝日ソノラマノベルズ作者の第2長編で、『二重螺旋の悪魔』に似たタイトルだが、特に関連性はない(少なくとも上巻の範囲内では)。 いきなり海上都市が沈没するというスペクタクルで始まり、まさにハリウッド映画ば…

『「日銀貴族」が国を滅ぼす』と共通する内容だが、いわば上念氏の師匠筋の人物だけあって、より専門的に日銀のどの施策が悪いのか、高橋是清前の時代まで遡って論じている。 専門家以外の人は、読む順番としてはこちらが後で正解、といえる。「長期国債の買…

『救国のレジリエンス』藤井聡 ☆☆☆★ 講談社内容じたいには全く同感だが、著者の主張はネットでたびたび聞いているので、改めてメモするところはほとんどなかった。 敢えて類書を挙げるなら、三橋貴明『日本のグランドデザイン』。メモ 「京都の祇園祭は、(…

『ケース・オフィサー(下)』麻生幾 ☆☆☆★ 幻冬舎文庫もちろん本作の執筆にも膨大な取材がなされているのだろうが(日本のトム・クランシーと言っても過言ではないだろう)、どうも小説としての修飾が凡庸な感じがした。 楡周平の「朝倉恭介」シリーズにもこ…

『ドル凋落 アメリカは破産するのか』三橋貴明 ☆☆☆☆ 宝島社新書「グローバリズムの擁護者として名高い経済学者、ジャグディシュ・バグワティ教授(略)でさえ(略)「貿易の自由化と金融の自由化との間には、一線を引くべきである」(略)「自由な資本移動が…

『折れた竜骨』米澤穂信 ☆☆☆☆ 早川書房魔法の存在する世界で起こった領主にして主人公の父親殺しの謎を書いたミステリー。 あとがきによると、本作はもともとデビュー前にネットに書かれていたもので、当時はハイ・ファンタジー、つまり完全に架空の創造世界…

『となりの車線はなぜスイスイ進むのか』トム・ヴァンダービルト著/酒井泰介訳 ☆☆☆★ 早川書房 原題は『TRAFIC Why We Drive the Way We Do』で、例によって副題のほうが原題に近い、売るための(詐欺的?)邦題になっている。中身は、ちょっとくどいし、冗…

『司馬史観と太平洋戦争』潮匡人 ☆☆☆☆ PHP新書 まずは、戦後GHQによって使われるようになった「太平洋戦争」という言葉の定義が不明である、というのが面白い。戦前使われていた「大東亜戦争」を使用禁止にしたいがために無理矢理押しつけたものだから、…

『外事警察』麻生幾 ☆☆☆☆ NHK出版911後の日本の対テロ事情を、タイトル通り、外事警察を主人公に描いたもの。 何よりも、書かれている何倍もの取材がなされていることがひしひしと感じられるリアリティが凄い。厚めのハードカバーとはいえ、それにしては膨大…

『コズミック・ゼロ』清涼院流水 ☆ いちおう今まで読んでみようとは思ったりしたものの、確実に面白くないだろうからパスしていたもの。 まさに時期を逸したとしか言いようがない(せめて『秘密屋』あたりか、遅くても『彩紋家事件』の時期に出すべきだった…

『百人斬り裁判から南京へ』稲田朋美 ☆☆☆☆ 文春新書 未来の総理大臣・朋美姫がなぜ政治家になろうと思ったか、いわゆる百人斬り裁判の経緯をノンフィクション風に書いたもの。 やや不謹慎かもしれないが、法廷サスペンスとしても読めるだろう。 その結論は、…

『日本の名著』 ☆☆☆ 中央公論社『放屁論』☆☆☆ 両国に自由自在に屁をこく男が見せ物をやっている。屁というのは実に何の役にも立たないものだが、それで歌から物語までこなすのだからすごい、という短編(^_^;) 三百年くらい昔の、江戸時代中期の小説が普通に…

『永遠の0』百田尚樹 ☆☆☆☆★ 講談社文庫 読者家・故・児玉清氏の解説を読めば良い。 それに抜けている部分は…。 まず、これがリベラリストばかりの戦後日本ミステリー界にあって、希有な保守的ミステリーだということだ。 なぜ特攻というものに多くの日本人…

『華竜の宮』上田早夕里 ☆☆☆☆ 早川書房 短編『魚舟・獣舟』の長編バージョン。 短編の方が、そのアイデアだけで良質のSFとして必要十分なものだったのに対して、長編として書き込まれたストーリー部分は、『日本沈没 第二部』のような世界で『樹環惑星』のよ…

『樹のごときもの歩く』坂口安吾+高木彬光 ☆☆☆ 東洋書院 裏表紙の解説は酷い。結局本作について何も述べてないのだ。乱歩の前書きを読んでいれば誰でも書ける。 本作は顔がわからないくらいの傷痍軍人として復員した安彦を象徴として起こる連続殺人事件。……