思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

うなぎ

☆☆☆★

役所広司主演ということもあるが、なんか『素晴らしき世界』と『三度目の殺人』を合わせたような印象。あとは『淵に立つ』とか。少なくとも、これで外国の映画祭で賞を取るなら、もっと良い演技の役所広司主演映画はたくさんある。
「うなぎ」って、『ヒメアノ〜ル』みたいな、最近の邦画にありがちな、何かの比喩かと思ったが、最初から最後までうなぎが絡んでくる映画祭だった(^^;)
冒頭で、不倫現場を目撃した主人公が相手ともども妻を刺殺して、自首するところから始まる。監房らしきカットがひとつ挟まるだけで、10年の刑務所生活から出てきたところへ一瞬で飛ぶ。
監察官と共に、理髪店を営む物件を見に行く。このへんも『素晴らしき世界』で踏襲されている流れ(というか、前科者ものは畢竟こうならざるをえないけどね)。
そこからは、哀川翔、さぶ、自殺未遂したとろを発見することになった清水美砂とその夫の田口トモロヲ(若いしメガネがないから一瞬分からなかった)、そして名の知らないUFOマニアの男など、個性豊かな面々が集まってくる。このへんのドタバタや、素っ頓狂な劇伴など、伊丹十三映画、とりわけ『タンボボ』っぽいんだよなぁ。あと、ラストに家の前の庭で、みんなで歌い踊るところは、ヴィム・ベンダースのクソ長い映画『夢の果てまでも』の終盤にそっくりだった。
冒頭での不倫現場や、清水美砂の裸も見られるが、役所広司はそのどちらとも絡まないという、変わったバランス。そこには好感が持てるが、それならば、全く裸を見せないで演出したらなお良かったんだけど。
なお、監察官役の一人と、清水美砂の母親は、『まんが日本昔ばなし』のコンビで、おまけに市川房枝は『家政婦は見た』ばりに同居している娘が夫とエッチしているところを覗くなど、変なところでパロディっ気がある。このへんも『タンボボ』っぽい。

以下ネタバレ

フード演出としては、清水美砂が、睡眠薬自殺から助けてくれたことから情愛を醸成し、それが役所広司に伝わることを、彼女が作った弁当が手渡されることで表現している。ベタというか分かりやすい演出である。
欠点というか不満点としては、清水美砂田口トモロヲが、夫婦なのか、ヒモなのか、不倫なのかよく分からないこと。副社長だから、たふんほんとに夫婦だと思うけど。
終盤に至って、冒頭の、不倫を目撃するに至った告発の手紙が、役所広司の幻覚だったんじゃないか、なんて要らざるサスペンスが追加されるが、別にいらなかったんじゃないかなあ。