思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

すばらしき世界


☆☆☆★

14年の刑期を終えて出所した役所広司演じるヤクザ。真面目に社会に復帰しようとするが、元・反社会勢力の社会復帰は難しい世の中になっていた……。
どこか『淵に立つ』だとか、『家裁の人』なんかを思わせる設定。『ヤクザの家族』はまだ見てないからね。
役所広司の役所が、普段は人の良さそうなおじさんだが、キレると相手が倒れるまでぶちのめすという、性格。ただし、キレるのは半グレがカタギをいじめていたりと、「正しい」ことに反する行為に接した時だけ。昔ながらというか、絶滅危惧種の任侠道と言える。
再就職が難しいとか、免許が取れないとか、顔の見えない人々やお役所的な相手には非情な扱いだが、保護観察官とか、元ヤンキーのスーパーの店長とか、身近に接する人たちは良い人ばかり。このへんが、最後に出るタイトルにもつながるのだが、本作に限っては、最後にタイトルが出る、という趣向は成功していないと思う。むしろ、冒頭で役所広司が刑務所から出たところでバーンと出すべきだろう。
役所広司の演技が評価されてるが、私的にはいつもの役所広司、という感じ。それより『狐狼の血』のほうが数倍良かったけどなぁ。

以下ネタバレ

ラストは、役所広司がやっとありつけた介護ホームでの仕事で、役に立つ貢献感を持てたところで死んで終わり。癇癪を抑えることで、社会に適応できる目処が見えたとはいえ、人生そんなにうまくゆく訳ではない。離婚した妻子とも連絡がつき、ある意味幸福の絶頂で(映画の構成的に)殺した、というのは、実人生の予期せぬ障害を経験した人にとっては、おはなし的なご都合主義にしか取れないんじゃないかなぁ……。
また、任侠映画の定番なら、クライマックスの、市政の人々の無邪気な悪意というか、障害者差別で怒りを爆発させるところが、本作ではそれを忍耐する、という正反対の構図になっているところが面白い。カタルシスには欠けるのだが、その分、花を手に死んでいるラストと、彼を慕う人々が彼のアパートに集まった場面からカメラが上に引いてゆき、空を映すことで、あたかも彼の魂が修羅道ではなく天国へ登ったかのように感じさせていることで、観る者の心を昇華させている。