思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

護られなかった者たちへ


☆☆☆★

映画館で予告は観たが、まあ、そこからのイメージ通りの内容。
東日本大震災をベースに、そこから生まれた悲劇を描く。感想動画によると、原作があるらしく、何作か読んだことのあるミステリー作家、中山七里だ。震災と殺人を組み込んだミステリーといえば、阪神大震災をテーマにした谺氏の作品があるが、本作は実は東日本大震災でなくても成立する動機ではある。
予想というか、予告編にない要素として、生活保護がある。本来は、これだけでも、社会派映画として成立する要素なのだが、エンタメとして処理するには、このへんが限度だろう。生活保護を申請する人も、受け付ける市役所の担当者たちも、それぞれに善意や公共の意識があり、それに主人公(佐藤健のほう)の想いが加わり、それぞれがすれ違うことで、事件が起きる、というところが上手い。犯人ひとりが悪人またはサイコパス、という安易な手を使わなかったことが。
ただ、お役所的に、手続きとかややこしいところもあるので、詰め寄る佐藤に、生活保護課の課長だか何だかが、ダーっと説明台詞を捲し立てるのには、シチュエーション的にあまりにも非現実的て唐突かつ浮いていたので、笑ってしまった。
時制があちこちに飛ぶことで謎を作り出すのは、『メメント』ほど極端でないにせよ、ストレートに構成するとミステリーとしては弱すぎるから、後付けで無理やり捻ったように感じたなぁ……。「カンちゃん」のくだりとか、多少おっと思ったことは否定しないけど。

以下ネタバレ

佐藤健があまりにも殺人犯っぽく撮られているのと、冒頭の生活保護課の女のエピソードが浮いているので、真犯人の意外性はほぼなかったのが残念かな。本作の主眼は、生活保護の問題と、ホワイダニットの半々であって、犯人あて/どんでん返しものではないから、これくらいのバランスでちょうどいいのかもしれない。
それよりも、レビュー動画が絶賛派ばかりなのが嫌だったかな。東日本大震災という、誰も否定できないテーマだから、それを扱った作品を貶すことすらタブー、という「空気」になってないかい??