思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

息吹

デッド・チャン
☆☆☆★
ハヤカワ文庫SF

前の短編集は粒ぞろいだった印象だが、本作は文学味が増して、SF性が減った感じ。

『商人と錬金術師の門』☆☆☆★
ワームホールが出来た時から過去には行けない、というハードなどこでもドアと、『アラビアの夜の種族』を合わせたような話。タイムパラドックスものでもある。

『息吹』☆☆☆☆
我々ヒトは電気信号によってシナプスを動かすが、それを空気によってできないか? という、ハードSF。表題作に相応しいできだが、解説にあるような大絶賛は過剰評価だろう。

『予期される未来』☆☆☆☆★
本短編集中で最も短く、そして最も切れ味の鋭い作品。「予言機」なるワンアイデアからもたらされる、人類の命運を左右する結末を描く。予言機とは、自動車の鍵を開けるリモコン付きキーみたいな形で、持った人がボタンを押す「前に」ランプが付くだけの機械だ。そこから、自由意志とは何か、と哲学的問題に発展するあたりが、SFの王道中の王道。

『ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル』☆☆★
人工知能と人工生命、メタバースを合わせたような話。これも、特にセンス・オブ・ワンダーがないんだよなぁ……。

『デイシー式全自動ナニー』☆★
ロボットに子育てはできるのか? という社会派的で、四角四面で面白くもなんともない話。

『偽りのない事実、偽りのない気持ち』☆☆☆★
日本の若手のSFでありそう。ラインだのTikTokだの、 YouTubeだのが好きなら、本作のように、全ての人にカメラをつけて、ネット上に公開することで、自分の記憶が、客観的事実としての動画の記録で上書きされる世界。

『大いなる沈黙』☆☆☆★
オウムは、人間以外に唯一、人間の言葉を話せるのだから、人間と同程度の知能を持っているはず、というのは、確かにクジラやイルカやチンパンジーよりも、説得力があるかも。

『オムファロス』☆☆☆
キリスト教徒が、主へ語りかける形のモノローグ。どうやら、キリスト教の宇宙創世が現実だったら、という世界かつ、色々とこの地球とは異なる地球の話らしい。

『不安は自由のめまい』☆☆★