思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

スピーシーズ 種の起源


イヴォンヌ・ナヴァロー著/関口幸男訳
☆☆★

映画版は、テレビで一部観た事があるが、このノベライズ版は、結構テイストが異なる感じ。
映画版は、要するに『エイリアン』プラス『スペース・バンパイア』。エイリアンのホラー要素はたぶんゼロだったと思うが、その『エイリアン』のモンスター要素をフィーチャーしたのがこのノベライズ版だ。
宇宙の果てからメッセージが届く映画はよくあるが、本作はエイリアン自身のDNA配列を送ってきて、それを再生するのではなく、人間の遺伝子と混血(?)することで再生する、というのは、ある種の物質転送といえるかも。
冒頭から、少女のエイリアン(と言っても映画やアニメの定番に漏れず、成長はやたら早い)が研究室を脱出するところから始まる。展開はこのままジェットコースターなのかと思いきや、そこからはロードムービー。エイリアンの主観で、アメリカを放浪する、という話なのだ。『ターミネーター』の序盤の、シュワちゃんの場面が延々と続く、と言えば分かりやすいだろうか。無垢な生命が、初めて見る外の世界、といえば、『バーチャル・ガール』ばりに面白くなりそうなのだが、なにせ価値観も違う異生物なので、どうにもかったるい。なんか映画版『おさるのジョージ』を観てるみたいなかったるさがある。
せめて、ターミネーターが情け容赦なく次々に人を殺して行くノリで、片っ端からセックスする、というならまだ楽しいのかもしれないが。なにせ、本作のエイリアンは、子孫を残すのが第一目的なんだからねぇ。
冒頭では、実験体を青酸ガスで殺そうとした研究者たちも、特殊能力をもつメンバーを集めて一見少女にしか見えないエイリアンを追うのだが、ことごとく後塵を拝するばかり。途中、ごていねいに繭に包まれて大人に変態するのだが、それの科学的/SF的な意味がない(^^;) 映画ではビジュアル的なインパクトだけで採用したのだろが、説得力ある理由や展開を見つけられなかったらしい。
エイリアンが、人間の姿を捨てて、蜘蛛のような副脚を駆使して人間と戦うのは、もう本が終わるころになってから。
本書は改行も少なく、びっしり文字で埋め尽くされているので、波長の合う人でないと楽しめないかな。アメリカの長い非SF小説とか普通に読める人。SFなら後期ホーガンとか。
本作は、少なくともこのノベライズを読むかぎりでは、『ターミネーター』と『スペース・バンパイア』の悪いところを合わせちゃったようだ。