思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

『物体E』ナット・キャシディ&マック・ロジャーズ著/金子浩訳
☆☆☆☆
ハヤカワ文庫SF

現代は『 STEAL the STARS』。原題の意味は、読み終えればすぐに納得するだろう。
邦題は、恐らくエイリアンのE……と書こうとして、アホさ加減に気づいた(^^;) あれ、何の意味だろう……? 普通にXでいいような……(´Д`)
まず、本作の文体にとまどう。「わたし」の一人称で、主人公が警備主任という職業であることもあり、男か女かすら、数十ページ読まないと分からない。そこまで読み進めてすら、叙述トリック的に、実は反対なんじゃないかという疑いが消えない(^^;)
おまけに、新人警備員を「あなた」と呼ぶ。これもしばらくすると、第三のセリフや、まれに主人公のモノローグでも名前が出てくるが、これが実にめんどくさい。
なんでこんな構成になっているのか。乱暴なようだが、本作は「ハーレクイン・ロマンス」だから、と考えると理解が手っ取り早い。
また、もう一つの理由もあるのだが、それはネタバレになるので後述。

本作は、数年前にアメリカに墜落したエイリアンの宇宙船と、その中にただ一人(?)いたが、生命兆候らしきものが全く認められない宇宙人を調査し続けている組織の日常を描くもの。
そう聞くと、押井守的な感じだが、意外と事件は早々に起こる。それがここまで(600ページ!)長いのは、ラジオドラマのノベライズだから。まさしく、シリーズドラマを1シーズン観たような充実(疲労)感を得られる(´Д`)
そこまで地球規模の事件が起こらないので、主人公の視点に限定されている語り口は理しやすいはずなのだが、前述したややこしい呼称のせいで、けっこう読み進めるのは骨だ。研究所の日常と、主人公の恋愛に関する描写が多いので、最初に挙げた、恋愛小説が苦手な人間には苦労するからだ。
だが、それを押して最後まで辿りつけば、こんなややこしい文体にした効果が最初まで遡って効いてくる。
解説でも、本作が「イヤミス」(面倒なので、SFと広義のミステリーとして)認定されているが、私には全然そうは思えない。むしろ、SFの王道として実にスッキリした。ネタバレなしの範囲で挙げれば、ある意味で『まさかな』に通じるというか……。

以下、ネタバレ

本作をイヤミスとするには、ラストで主人公が恋人にも裏切られ、かつ悲惨な死に方、あるいは宇宙人を移動させたことで、世界の破滅を引き起こす、くらいのことにはならないと。
しかし、恋人の行為は善意故のことだし、二人は文字通り一緒になれたんだからら、めでたしめでたし、むしろハッピーエンドでしょ?
集合知性に同化したから、回想シーンであった最初からの文章が、二人称であった、と遡及する叙述トリック(?)もうまい。

さらにネタバレ

本作を読み終えて思ったのは、『スカイライン 新略』や『オシリス』なの、海外SF映画によくある、エイリアンに取り込まれても自我を保つ系を意識していると思うのだが、私が「元ネタはこれだ!」と感じたのが『ブラッド……。ミュージック』だ。

以下、『ブラッド・ミュージック』のネタバレも出てきます(^^;)

もちろん本作で描かれているのは10人くらいまでが同化した状態だが、これが進めば、同作のように、全地球が1つの知性体になるであろあことは容易に推測できるからだ。