思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

『野火』
☆☆
市川崑の白黒映画。フィリピンの敗残兵がテーマなので、さすがにスタイリッシュさもなく、音楽もどこか茫漠とした感じ。船越英一郎っぽい(いうまでもないが別人)主人公も、どこか抜けた感じのキャラとして描かれている。戦争の緊迫感や、極限状態を描くはずなのに、どこか虚無感だけを感じるのは、私が細切れで(一週間くらいかけて)観たからだけだろうか…?
白黒で、木陰も多い環境なのに見やすかったのは、顔に照明を当てているであろう、ライティングのうまさによるところが多い。

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大岡昇平

角川ヘラルド映画 2007-01-26



マタンゴ
☆☆☆★
東宝特撮ファンなら、絶対に見ておかなければならない一本なのに、なかなか見る機会がなかった。
ホラー映画なのに、ヨットが遭難するまで、遭難してから、無人島に漂着するまでのプロセスが丁寧に描かれている。
よく言えば当時の東宝スター総出演、悪く言えばいつものメンバーしか出ていない、まるで小さな劇団の舞台を見ているかのような配役。とは言え、役者のイメージに沿ったキャラ設定のため、10人くらいいる遭難者たちの把握がしやすいのは非常にありがたい部分。この辺りは、そういう配慮で、俳優の定着したイメージと違う設定をしなかった監督たちの巧いところ。
極限状態の人間模様をしっかり描き、分裂して行くところなども、きっちり演出していて、毒キノコを食べるまでのプロセスも合理的。ただ、前に遭難した人の書き置きで全て説明するところまではやりすぎというか、親切すぎかも。マタンゴの名前もここで出てくる。
本作の白眉というか、「見て良かった」と思えるのは、クライマックス。星由里子の支配する”マタンゴ王国”状態に連れて行かれる主人公たちや、そこから(そんな導入部があったことすらもう忘れていた)映画冒頭のナレーションに戻る。それを語っていたのはただ一人、生き延びた彼らのうちの一人だった、というオチも短編ホラーの真骨頂的で見終わった感じが良い(よくできたものを見た感)。

マタンゴ Blu-rayマタンゴ Blu-ray

東宝 2017-11-03