思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

忍法忠臣蔵


山田風太郎
☆☆☆☆★
講談社文庫

何回目かの再読。映画『忍法忠臣蔵』を観たので、原作チンピラである(本書のあとがきに馳星周氏が「チンピラ」云々と書かれているのでややこしいが、ジャガモンド斉藤語呂のほう)。
映画とは全然違うやん!? 映画版は小説の面白さの1割くらいしか表現できていない。まさに大人と子供、くらいの差がある。
最初の、江戸城の大奥や、御台所に関する歴史的なディテールは、時代小説家としての面目躍如。普通の時代小説以上のしっかりした資料調べの上に、荒唐無稽極まる娯楽大作を築き上げるのだから、並大抵の力量では太刀打ちできない。
挨拶代わりの、懐紙で刺身を作ってしまうのも凄いが、海老の池づくりから、人間が生きたまま歩いて寝所へ行き、布団の前でスルスルと肉片が剥がれ落ちてゆくという、発想、ビジュアルの幻妖さよ! これだけでも映画で再現できていれば! 『インビジブル』なみに、映画史に残る一作になっていたであろうのになぁ……。
本作は、『忠臣蔵』を描きつつ、討ち入りを阻止しようとする吉良/上杉方の忍者と、それをさらに阻止しようとするのが上杉家の家老という、一読すると「??」となる設定が絶妙。それが、ちゃんと歴史小説あるいは歴史ミステリーとしての要請からくる設定なのだ。
本作の主人公は伊賀で修行した無明綱太郎だが、「忍法帖」シリーズでも、戦闘力という点では最強クラスと言っても過言ではない。江戸生まれで、大人になってから数年修行しただけ、というから、なおのこと。おまけに、儚くも散って行く忍者が殆どの中において、ほぼ無傷のまま生き延びている、という点からも、まさに最強。
忠臣蔵』をテーマにしながら、忠義(と女)が大嫌いな主人公を据える、という人を食った、
しかしそれを大胆不敵にも、単に現代的価値観を押し付けるでもなく、歴史的な説得力を持って納得させる山風の筆力や恐るべし。