思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

『ヤギより上、猿より下』


平山夢明
☆☆☆☆
文春文庫

平山夢明の小説って、広義のイヤミスか、ノワールに分類できると思うのだが、何故か読者を惹きつけるものがある。それは、文字通りクソみたいな場面に挟まれる、小説的な叙情性だったり、物語としてのトルクであったりするのだろう。

『パンちゃんとサンダル』☆☆☆★
父親な家庭内暴力に遭っている少年の目線で、『シンデレラ』における魔法使いや、『あしながおじさん』的なファンタジーかと思わせて……。これ、この後から、刑事視点で描けば、正しく湊かなえや、深木章子のようなイヤミスになる。隣に住む外人アレクサンデルの正体が、身も蓋もないというか、現実主義的で素晴らしい。島本和彦(=炎尾燃)的に言えば、「自分でなんとかするしかえるまい!」というやつ。

『婆と輪舞曲』☆☆☆★
プロットだけみれば、失踪少女を,探す私立探偵/ハードボイルドものだが、そう単純にはいかないのが平山流(^^;) 主人公は、妻子に逃げられて、ボケ老人の娘探しを手伝って、毎日ほぼ同じことを繰り返して小遣いをもらっている、ある種のヒモ(^^;) そんな彼が、婆さんの娘と、分かれた娘の失踪を解決する、れっきとしたミステリーである。

『陽気な蝿は二度、蛆を踏む』☆☆☆☆
プロの殺人者である主人公は、ターゲットがどんな人間か知りたくなり、情報を集めたり、時に酒を酌み交わしたりもする。まんま映画『ANA』と同じ設定。これが長編なら、映画と同様に組織から命を狙われるだろうが、短編なので、そこまでは行かない。今回の依頼を通じて、よくこんな設定考えるなぁ、という主人公の過去と対面する。とは言え、仕事はプロらしくきっちり完遂するのも素晴らしい。

『ヤギより上、猿より下』☆☆☆★
「負け犬たちのワンスアゲイン」ものというか、世の中の底辺に生きる者たちの「一発かましてやれ」もの。山田風太郎『乞食百万騎』にも通じる。
なにせ、本作の主人公たちは、作中の記述通りに書けば、押しも押されぬ「淫売」。小さな売春宿の娼婦たちなのだ。中年であることは共通しているが、体形もそれぞれ、客を快楽の際に追い立てているんだか、再起不能にしているんだか分からない必殺技まで持っている(^^;) 『風来忍法帖』を連想させ、これまた山田風太郎スピリットを感じる。
タイトルのゆえんは、この淫売宿に、ヤギとオランウータンが、娼婦としてやって来るから。ブラックコメディなのか、ナンセンスなのか、不条理なのか、シュールなのか、よくわからない非日常性が、平山作中の真髄。おまけに、こんなぶっ飛んだ設定と展開なのに、いい話として帰着するのだ。