思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

ベーシック・インカム

井上真偽
☆☆☆★
集英社

SFミステリ短編集、というのが作者にしては意外なチョイス。

『言の葉の子ら』☆☆☆★
変な言動をする幼稚園の話。これ、多分最大のどんでん返しに関するネタは出てきた瞬間に分かった。ただし、もう一つのネタである暗号モノは、1ひねりしてあって、ある意味、上級者向けの犯人あてミステリーに出てくるようなタイプ。

『存在しないゼロ』☆☆☆
遭難からの生還モノ、と思いきや、前作とは全く別の方向からの大小2つのどんでん返しがあり、しっかり作り込まれている。面白いかどうかは別にして・・・。

『もう一度、君と』☆☆☆★
一転して、VRが普及した未来の話。ありとあらゆる設定が出てくるだろうから、古典怪談が選ばれることも取り立てて不思議ではないだろう。これまた妻の失踪の謎と、もう一つのどんでん返しが、明確な伏線と共に明かされる趣向。

『目に見えない愛情で』☆☆☆
目の見えない娘に最新の医療による視覚回復手術を受けさせるために奮闘する、父娘家庭の話。かなり地味というか、ハートフルな話で、近未来の話、という以上に何かあるのかと思っていたら・・・。ただしどちらかというと女性向けで、ちょと新本格好きおじさんには地味すぎるかな?

ベーシック・インカム』☆☆☆
序盤にベーシック・インカムに関連する経済談義があり、ちょっとリフレ派にはもどかしい展開。そのあとは殺人ではないが、金庫の中身を盗む一見不可能な状況という密室ものになる。終盤、ある種作者自身の連作集についてのメタ的なネタかと思わせるところもあるが、ド本格密室もの好きではない私としては、ちょっと地味すぎる結末。もちろん、作中の出来事を踏まえて改変した、と解釈することもできるのだが、直接的な記述はないので。