思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

殺人探求

フィリップ・カー著/東江一紀
☆☆☆★
新潮文庫

予備知識ゼロで読むと、ちょっと混乱する。二千何年に何が起こったとか、昏睡刑だとか、指紋認証ドア、ピクトホンなるもの(文脈から判断するに、ポケベルではなくテレビ電話)、アメリカかと思いきや、EUの一部であるイギリスが舞台だとか。
本書は、90年代に書かれた近未来を舞台にしたミステリーなのだ。ミステリーSFかといえば、少なくともSF者である私に言わせれば、近未来を舞台にする意味は全くないと言っても過言ではない。
いちおう、現在ではVRと呼ばれているARなる仮想現実と現実の区別がつかなくなっていることが犯人の連続殺人の理由だとされるが、とってつけたようなものだ。作中で犯人が自ら語るように、サイコパスにとっては理由などない、というのがある意味の真実であろう。
これが、殺人が、あくまでも論理的な帰結によるものであれば、『鉄鼠の檻』なみの傑作になったであろうのに。肩透かしもいいところ。『ウィトゲンシュタイン殺人事件』