思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

パラレル・フィクション


西澤保彦
☆☆☆
祥伝社

作者久々のSFミステリ? と思って(最近あまり図書館に西澤保彦の新刊がない印象なので)期待したのだが、ちょっと、いや、だいぶ弱い。
本作におけるSF的なテーマというか、設定は予知。未来の出来事を、夢を見ているのと同時間体験できる。夢といったら、時間経過が全く異なり、実際に夢を見ている時間の方が断然短いのは常識といっていいだろう。一挙手一投足・一言一句覚えていることもあり得ないので、これは未来を体験できると言い換えてもいいだろう。SF的な設定として。
未来の殺人事件を防ぐ為に奮闘する、というならありがちだが、本作ではそうならない。
ます、始まったら、事件の概要を2人で延々とおさらいする。映画にら例えると、いきなり回想シーンになるので、物語が進んでいる感じがしない為、本を読むドライブ感がない。そのため、読むのがしんどいのだ。おまけに、最初から「事件は起きなかった」と書いているんだからなおさら。要するにこれ、短編が中編のネタなのだ。
嵐の山荘での一族の遺産相続殺人ものということで、長編としての体裁を整えていて、実際には動機の面では多少の意義はある。また、トリックとしても、これを成立させるには、長編である必要はあるのは分かるが、二度あることは三度ある、というどんでん返し系作品のレッドヘリングの常道から、それが誰かはともかく、誰かしら予知能力者がいるであろうことは予想の範囲内。
女装家がいたり、殺人の動機については西澤保彦らしいが、とってつけた感じは否めない。
予知夢の設定はいらないから、事件前後のボリュームを倍にして、普通の館ものミステリーに仕上げたほうが良かったと思う。『女装家殺人事件』とか銘打って。
ちなみに、本作では、設定説明、不穏な空気、殺人、推理、解決、エピローグという構成をシャッフルしている、というところが特徴。殺人は起こっており、設定説明、殺人、推理を3回繰り返した後に解決となるのだ。それが面白い作品に結実しているかどうかは別問題だが。