思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

『電気じかけのクジラは歌う』

『電気じかけのクジラは歌う』逸木裕
☆☆☆★
講談社

体裁はSFのようだが、読んでみればミステリSF。実は近未来を舞台にした純文学ならぬ純音楽。
ヴォーカロイドならぬ、作曲アプリによって作曲家だけでなく音楽家そのものが消滅のか危機に瀕した近未来、音楽家達の苦悩を描いた小説だ。
ミステリ的にいえばホワイダニット。なぜ天才作曲家は自殺したのか? 死後に遺作が公開されたのは誰が、何の目的でやったのか? という謎がある。
はっきり言って、ミステリー、またはSF的には軽めの長編程度のネタであり、本作のようにしっかりした長編にするほどではない。
しかし、本作は音楽家の心情をしっかり描いており、純文学としても普通によくできている。
その意味では、海外のブロックバスターや、『キリンヤガ』みたいな人間を描くために舞台・設定のほうをこしらえるタイプである。