思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

『ちびねこトムの大冒険』
☆☆☆★

80年代末に作られ、紆余曲折の末に92年だか6年だかにようやく完成したものの、公開する機会がなく、最近になってようやく有志で地方公民館レベルで観られるようになった幻のアニメ。
設定からして『ガンバの冒険』を連想せざるをえないが、ネコや鳥であることは劇中で触れられるにも関わらず、人間は登場しない。宮崎駿版『名探偵ホームズ』方式なのだ。これが何のためかと言うと、人形劇的な、子供たちへのとっつきやすさの他に、本作は実質的に異世界ものなので、人間だと比較してリアリティレベルが上がるので異世界の設定を作り込む物量が飛躍的に増えてしまうから。それともイメージは『70日間世界一周』?どちらにせよ、いかにも東映動画などの古きよきアニメの香りだ。
おまけに、名前まで何故か外人のそれなので、実はリアリティや親近感は少な目。
まず、導入として、アニメート全般のレベルはかなり頑張っている。画面比率がパノラマサイズではなく3:4であることから見ても、テレビスペシャルとして企画されたのではないだろうか。劇場版にしては背景の描き込みが少ないし。
中盤からは実質的に異世界ものになる。ご親切にも世界地図が出てくるが、我々の地球とは似て非なるもの。この地球を救え、という親近感が出ないじゃないか。『ガンバ』みたいに、人間には期待できないから、動物たちが頑張る、というなら分かるが。
地球各地に散らばったのに、まるで町内であるかのように連絡手段もない中では邂逅するのも子供的なご都合主義。映画単発にしては急展開すぎる流れで、本来は『母を訪ねて三千里』的なテレビシリーズ向け設定じゃなかったのかなぁ。
高速移動手段も、ファンタジーの定番たる飛行船や鳥ではなく、スコップやパチンコや帽子に乗って飛ぶ、というシュールさ(^_^;)もちろん(?)ワープもある。
ラスボスも、壁画で触れられていただけで、何か唐突に出てきた感は否めない上に、何がしたいのかよく分からない出崎統調キャラ。
そもそも、「地球のかけら」をすぐに付けたら地球各地に弾かれて、再び付けたら万事解決、っていうのは大人は納得できないし、だからこそ子供にも不誠実では?異常に長い「つながれつながれ……」という祈りで押し通してはいるが……。
声優陣はやたら豪華で、藤田淑子野沢雅子高山みなみ、ヒロインには佐野量子。佐野さんは『雲のように風のように』でも主役の声を当てていたが、プロ声優ではないにしては、それなりに聞ける人の一人だった。
私的には、メインとなる川井さんの音楽。子供向けの、さわやかな導入から、ちょっとした冒険、という雰囲気で実にマッチしずぎて、言われないと分からないだろう。もちろん、川井ファンとして聴けば、川井サウンドが滲み出ているのを感じることは出来るが……。エンディング歌も川井さんによるもので、文句なし。
とりあえず、手放しで誉められる点を挙げるなら、各アニメーターの仕事と、オープニング(画面と曲)くらいかなぁ……。