思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

アキラ(2)

☆☆☆★

大友克洋が日本漫画界に与えた衝撃の大きさについては、ちょうどこの前に観た映画『市民ケーン』が映画界に与えた衝撃と似ているかも。取り分け感じるのが、あまりにも空間的にも時間的にも影響が大きすぎて、後世の人間には当たり前の表現ばかりで、何が凄いのかよく分からない、というところ。
現在の目で見ても凄いのは、背景の描き込み。押井守の『パトレイバー劇場版』とはまた違った意味で、東京という都市そのものが主役、という事も言えよう。『アキラ』の場合、東京という場所で起こった事件、それこそが描きたい事であって、登場人物は、そのためのコマに過ぎない。だって、こんな萌え/燃え要素のないキャラに感情移入できんやろ!?(^^;)
みんな絵が上手い上手い、というけど、私からすると、背景が上手いマンガは人物がヘナチョコ、という法則に収まるんじゃないかと思える。擁護するというか、別の見方からすると、背景と人物が等価に近い、ということか。
背景やメカニックのディテールは素晴らしく、携帯レーザー砲とかは、ケレン味はあまりないが、メカフェチなら、渋いとうなるもの。カトキ氏が大友作品を監督したくなるのも頷ける。衛星レーザー砲とかもね。
描写としては、壁をすり抜けるコマが、絶妙な一瞬を切り取ったポーズと構図で、思わず「凄い!」とページをめくる手が止まった。
背景が細かいところは『バスタード!』や、それに加えてキャラの線がヘナヘナなところは『アップルシード』とかに直接の影響があるよね。あとは『サイレントメビウス』とか。そういう、他への影響のほうがもはや気になるよなぁ。本作で描かれているの内容そのものよりも。

プレステージ

☆☆☆★

たしか日本公開前に、飛行機で観た。オチしか覚えてなかった(^^;)
今見ると、ノーランらしさはあまりないかなぁ。時系列をいじりまかる、悪い面ばかりが目立つ。
普通に時間順に見せるほうが、ストレートに、ライバルとの抜きつ抜かれつで盛り上がれるんじゃないかなあ。面白くなってきたら、いちいち時間が前後するので、イライラさせられる。

以下ネタバレ

手品ものなのに、最後はホントの魔法でした、というオチは、手品映画としては反則だろう。もちろん、通向けに敢えてやってるのは分かるので、そこも含めて愉しめる、私のようなSFファン向けなのかも。
そういえば、原題でもある「プレステージ」の意味は、てっきりステージのプレ、つまり前で、舞台裏を指すのかと思ったら、作中の字幕には「偉業」というルビがふってあった。まあ、超訳するなら、「喝采」とか、「スーパーイリュージョン(爆)」とかかな?(^^;)
それにしても、タントンのほうは、魔法だったのは映画的なオチとして良いとしても、もう一方は双子でした、というのは中盤のクライマックスくらいにしておいた方が良かったんじゃないかなぁ。作中でも、パートナーの発明家の人が真っ先に指摘していたし。
変な小太りのおじさんが、何の説明もなしに、いつのまにかいるなぁ……。と、めちゃ違和感があったのだが。逆に、もうちょっと似た変装にしといたほうが良かったのでは? あ、そうか!? このトリックのために、さんざんダントンのステージを偵察に行く時は、付け髭だけのバレバレの変装にしていたのか!(@_@) そこは見事にしてやられたかも(^^;)

眠れ、わが愛よ

笹沢佐保
☆☆☆★
光文社カッパ・ノベルス

著者のことばによると、「事件の発端も経過も、誰が探偵役で誰が犯人役なのかも、犯人の動機も、すべて謎」とある。前半は、ミステリーなら当たり前だろ、と言いたくなるところだが、最初に起こるのが主人公の妻が、行く予定のなかった遠い場所での飛行機事故による死亡、というのがミソ。
探偵役は、まあ、誰もが水族できるだろう。「こういう浮世離れしたキャラは、まず探偵役で、逆に犯人、というのもそのまますぎるあから、やっぱり探偵役しかないだろう」という人物である。
展開としては、ノン・シリーズの社会派推理小説という感じ。その割には、死体が四つも登場する、サービス満点というのか、新本格でもないのにそんなに死体が出てきて収集つくのか? と余計な心配をしたくもなる。ただ、探偵でもない一般人が探偵役を努めるにしては、警察があまりにも無能過ぎるのは読み終えると気になる。簡単に事故死とか自殺で処理しすぎ。動機を外部から隠蔽する、という設定は、ギリギリ作中では成立しているのかな、というライン。何故、夜行列車を使ったのか、という理由は上手い。

「自殺であろうと、死後24時間はそよままにしておかなければならない。ほかの毒物反応が、死体に表れるかどうか確認するためである。」
まさかこういう作品でメモするようなネタがあろうとは。

以下ネタバレ

「おれが不思議がっているのに、村雨敏夫は、礼美さんが妹の家を連絡先としたことを当然思っている」
という伏線/手がかりは実に見事。妻が事故死した、という事で真っ先に起きる展開なのだ。
本作は、乱暴に分類すれば、主人公(語り手)イコール犯人ものなのだが、終盤、主人公の不倫相手に、旧友(にして、気づかないうちに自分の妻を奪った「犯人」でもあり、主人公に陰道を渡す探偵役でもある)をスパイさせる事にした後、叙述視点が不倫相手の視点にさりげなく移行して、主人公(犯人)が読者の背後に隠れる、という手腕はうまい。
それにしても、本作の登場人物は、実に本能に忠実にというか、フリーセックスというか、真面目な大人からすると、友人知人がこんな奴ばかりだったら、トラブル百出だろうなぁ(^^;)

ミッション・マンガル

☆☆☆★

インド映画で、実話を元にした火星ロケットもの、となればSF/映画好きなら観ないわけには行かない。
冒頭は、ロケット打ち上げシーンだが、結果から言えば失敗。それはいいのだが(『アポ13』でも冒頭は1号の事故だった)、そのCGが20年前の日本映画みたいなレベルだったので、大いに心配になる。
幸か不幸か、ロケットはクライマックスになるまで出てこないのだが、やっぱりチープなのは変わりなかった(^^;)
とは言え、本作にはそんなのを心の目で補えるくらいのドラマ的なパワーがある。
物語は、冒頭の打ち上げに関わった責任者二人の、「負け犬たちのワンスアゲインもの」であり、『プロジェクトX』的な、池井戸潤的な企業内逆転ものでもある。
窓際的な火星プロジェクトに集められたメンバーが、男尊女卑的な意味で女性を中心に、老夫や占い依存症の頼りない男など。『少林サッカー』か『シン・ゴジラ』か、というダメダメなメンバーなのだ。
それが、さまざまなアイデアで、技術的にも予算的にも、機材的にも、不可能と思われた難題をクリアして、火星に到達する。打ち上げ前には、5日連続で雨が続いて、最終日の夕方に晴れる、という「ホントか?!」という障害も。
劇中で説明される宇宙物理学は、高校生レベルのもので、どれも理解できる。ただひとつわからなかったのが、自己修復する膜。いったいどういう原理で??
インド映画らしく、照明ガンガン当ててるんだろうな、という(夜でと)明るい画面。彩度や、人物の影の少ない感じも独特。
インド映画といえば歌と踊りだが、本作は地味なテーマなのでさすがにない……と思わせて、中盤にありました! まさかのみんなで職場を大掃除!(^^;)
踊りはそのシーンだけだが、同じその歌はその後も1、2回挿入歌として流れる。ノリもよくて楽しい曲なので、歌もの嫌いの私でも、抵抗感は全くなかった。字幕は出るが、何を言ってるのか聞き取れなかったので、もしなしてヒンズー語だったりした??

悲しき天使

☆☆

売春宿の女に恋した男の話。こういう話は、ある意味で全く意外でもなんでもないというか、売春宿に行くような奴は(もちろん私も含めて)、そこで働く女にぞっこん惚れてしまって当然。むしろそうならないほうが不自然、というくらい。これはホステスとかホストのクラブ通いの場合も同じ。
本作では、遊女側の人間模様と、主人公以外の、やってくる男にも2,3人のパターンを用意して、群像劇っぽい感じにしている。
こういう映画の主人公はえてしてダメダメ人間がなのだが、本作では、過去にヤクザに逆ギレしてナイフで刺したことがある、という妙に芯の強いところがある。そんなことでターゲット層はモテない男子であろうのに、たぶんそちらには全然感情移入できない設定にしているのはいかがなものか。
かと言って女性陣といえば、あるあるの嫉妬からの掴み合いのキャットファイトがあったりして、こちにも共感しづらい。
クライマックスに刃傷沙汰になるのも、ピンク系の文芸映画のお約束なのか。文芸というのは、途中に店の女のひとりが元教師で、かつての教え子がやってくるが、彼は知恵遅れで、切れると暴れ出す……なんていう、エンタメ映画なら、地雷になりかねない展開を放り込んでいるところ。
知恵遅れといえば、店長の娘もそうなのだ。が、特に初登場シーンが強烈なのに、店の女と区別がつけづらかったり、もうちょっと説明が欲しかったところ。
そうそう、こんな設定なわりには裸のシーンが少ないかな……。まあ、ピンク映画の濡れ場は滅多に真面目に観ないけど(^^;)早送りするくらい。

レフト・ビハインド

☆☆★

『巡り会えたら』みたいなテイストで邦題をつけるなら、『取り残されて』という感じの映画。
どこまでもスケールを大きくできるネタで、アメリカのブロックバスター小説なら、上中下の3巻編製になってもおかしくないくらい。
ネタバレなしで書くと、旅客機のCGやミニチュア(一機の飛行機ね)がショボいのが残念。同じニコラス刑事なら、『ノウイング』のほうが数倍、金がかかってる。もしかして、ネタ的に、アメリカ版の幸福の科学映画みたいな経緯の作品だったりする? 逆に、自主制作映画でもできそうなネタでもある。地上パートとして、ニコラスの娘が、これまた多くの人々が消えて、パニックになった街を彷徨う。それぞれを、別の低予算映画の『1』『2』として別々に作ったほうが良かったんじゃないのかなぁ(^^;)
ネタバレなしの範囲内で書くなら、乗り物パニック、『エアポート』シリーズのような旅客機パニックものである事は間違いない。
地上パートが多すぎることと、メガ盛り要素が乗り物パニック要素を食っているので、同ジャンルが好きな人でも、好みは真っ二つに別れそう。中でも否定派寄りに(^^;)

以下ネタバレ

本作は、よく知らないが、キリスト教原理主義者が、教義を広めるために作ったかのような映画。敬虔なクリスチャン、というよりも、純粋ない魂の持ち主だけが天国へ全世界中で一度に昇天した。どうも携挙とかいうらしい。キリスト教信者ではない大部分の人からすると、着ていた服を残して、一瞬にして人間が消える、超常現象が起こった。ニコラス刑事はジェット旅客機のパイロット役(刑事と変換したままだとややこしいか(^^;))なので、副操縦士
スチュワーデス、多くの乗客が消えた機内は、必然的に乗り物パニック映画そのものの展開となる。おまけに、何故か(映画の終盤になってようやく応答があるが、それまで何をやっていて返事できなかったのか、説明がない)地上との無線も、携帯電話も終盤まで通じない。このへんも理由がないとか、脚本がテキトーなところだ。
SFファンからすると、新生児が1人残らず消えているのはいいとして、生まれる前の胎児はどうなるのか描写がない(特に妊娠中絶には論議を呼ぶアメリカだけに)とか、良くも悪くもツッコミたいネタなのに、スルーするあたりが、C級の所以か。
ニコラス刑事があの顔でモテるのは、まあ映画内ではハンサム役ってことで許せるとしても(^^;)
旅客機パニックものとしては、完全に平凡そのもので、翼の損傷を、乗客がカメラで撮って、機長に見せる、という(細かい)描写が面白かったくらい。
聖書ものとしては、人が消えた理由が「聖書に書いてあるから」以外の説明がないので、ほぼ旅客機パニックのきっかけくらいにしか機能していないので、二度を追って、どちらも中途半端になった典型。何より、旅客機が被害者ゼロで不時着できても、消えた人は戻らず、何も解決していないのだ。
とは言え、序盤にさんざん伏線を貼っていたように、災害や事故に遭った時、残された遺族はどう感じたらいいのか、その答えは観た人が考えろ、ということなのか(^^;)
特に旅客機内は、閉鎖環境でもあり、キリスト教的な設定とか、『ミスト』のような昇天/生贄論が聞けるのかと思ったら、そこはオカルト的に処理されていて、拍子抜け。そここそが描きたかったんじゃないの??

ライリー・ノース 復讐の女神

☆☆☆

ごく普通の母ちゃんが、夫娘を殺された事をきっかけに、復讐の鬼となる。
復讐の相手というのが、麻薬組織。夫は、妻に内緒で麻薬取引に手を染めていたのだ。まあ、自業自得じゃないの? と言えなくもないが、とりあえず母ちゃんは、武器を買うだけではなく、軍人並みの武器の扱い、地下格闘技などを通じた実践格闘術など、徹底的に殺人マシーンとして鍛えて、夫を殺した組織の壊滅だけを目標に、数年後、街に帰ってきた。
香港映画とかではありがちだが、特訓シーンが皆無なのがハリウッド映画らしいところ。そのへんが「ナーメテーター」ものっぽい。『ランボー ラスト・ブラッド』というより、ビジュアルが中年のおばちゃんなので、『ターミネーター2』のサラ・コナーがいちばん近い。
冒頭に、殺人マシーンとなった姿を見せているので、途中で夫の巻き添えで撃たれても死なないし、殺人マシーンになるのもバラされているので、中盤までが全然面白くないのは、理解に苦しむ構成といえる。派手なシーンを頭に持ってくるのは常道だが、そこまで燃える/萌えるシーンでもないし。

以下ネタバレ

『21ブリッジ』よろしく、汚職警官ネタがどんでん返しとして仕込まれているが、それが逆に感情曲線が一直線に上がるのを妨げている。
途中までは、序盤に出てきた
嫌なママ共が玄関を開けた途端に鼻の骨を折るくらい殴ったりと、痛快なのだが。
最後は復習を遂げるも、大怪我を負って入院。家族が殺された時からの警官に、逃がしてもらう。これって、本作だけのテーマからは不要なので、もしもヒットしたら続編を作ろうと、という下心が見え見えで嫌だなぁ(´Д`)