思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

眠れ、わが愛よ

笹沢佐保
☆☆☆★
光文社カッパ・ノベルス

著者のことばによると、「事件の発端も経過も、誰が探偵役で誰が犯人役なのかも、犯人の動機も、すべて謎」とある。前半は、ミステリーなら当たり前だろ、と言いたくなるところだが、最初に起こるのが主人公の妻が、行く予定のなかった遠い場所での飛行機事故による死亡、というのがミソ。
探偵役は、まあ、誰もが水族できるだろう。「こういう浮世離れしたキャラは、まず探偵役で、逆に犯人、というのもそのまますぎるあから、やっぱり探偵役しかないだろう」という人物である。
展開としては、ノン・シリーズの社会派推理小説という感じ。その割には、死体が四つも登場する、サービス満点というのか、新本格でもないのにそんなに死体が出てきて収集つくのか? と余計な心配をしたくもなる。ただ、探偵でもない一般人が探偵役を努めるにしては、警察があまりにも無能過ぎるのは読み終えると気になる。簡単に事故死とか自殺で処理しすぎ。動機を外部から隠蔽する、という設定は、ギリギリ作中では成立しているのかな、というライン。何故、夜行列車を使ったのか、という理由は上手い。

「自殺であろうと、死後24時間はそよままにしておかなければならない。ほかの毒物反応が、死体に表れるかどうか確認するためである。」
まさかこういう作品でメモするようなネタがあろうとは。

以下ネタバレ

「おれが不思議がっているのに、村雨敏夫は、礼美さんが妹の家を連絡先としたことを当然思っている」
という伏線/手がかりは実に見事。妻が事故死した、という事で真っ先に起きる展開なのだ。
本作は、乱暴に分類すれば、主人公(語り手)イコール犯人ものなのだが、終盤、主人公の不倫相手に、旧友(にして、気づかないうちに自分の妻を奪った「犯人」でもあり、主人公に陰道を渡す探偵役でもある)をスパイさせる事にした後、叙述視点が不倫相手の視点にさりげなく移行して、主人公(犯人)が読者の背後に隠れる、という手腕はうまい。
それにしても、本作の登場人物は、実に本能に忠実にというか、フリーセックスというか、真面目な大人からすると、友人知人がこんな奴ばかりだったら、トラブル百出だろうなぁ(^^;)