思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

大河への道

☆☆☆

香取市(実在するの? 関西人にはよく分からないけど)の市役所に務める中井貴一演じる課長が、地域振興のため、伊能忠敬大河ドラマに取り上げてもらおうと思いつき、言い出しっぺとして、責任者を命じられる。往年の名脚本家が市内にいることを聞き、その人・橋爪功の元へ三顧の礼を取るのだが……。
伊能忠敬については、『風雲児たち』で、ある程度以上の知識がらあるので、それ以上のものはなかったが、ドラマとしては、確かに大河ドラマになってもおかしくない偉人である。本作を観ることで、伊能忠敬のエラさが分かる……かというと、そうとも言えないのがツラいところ。内容的には、十分くらいでわかる内容。
なお、本作は、立川志の輔創作落語が原作という、変わった作品。どこまでがその落語にある要素なのか、聴いたことがないのてま、映画スタッフのセンスについて批判しようがないのだが……。

以下ネタバレ

予告編は何回か観ていたので、本編を観てまず驚いたのが、時代劇パートがあること。それも、現代パートで喋られていた内容をほぼ追認されるだけで、ほとんどテレビの再現VTRの一歩手前かも。どちらか一方に絞るべきだし、たぶん原作である落語も、そうなんじゃないだろうか?
予告編にあったように、現代だけを舞台にした、『プロジェクトX』的な話で充分面白くできると思うけど。『スローな武士にしてくれ』とか『太秦ライムライト』みたいな感じ。
時代劇パートは、中井貴一ら、現代劇と同じ俳優が演じていて、まるでバーチャル・リアリティものみたい。でも、伊能忠敬は始まった時点で死んでいて、顔に布がかけられた死体以外は一切登場しない。つまり、現代劇パートにも該当する人物がいないわけで、これ、深読みすれば、本作において、伊能忠敬は単なるマクガフィンに過ぎない、ってことなのか? と勘ぐりたくなるくらい。
まじめに取れば、最後に橋爪功が、大河ドラマを『高橋景保』にしたい、という無茶苦茶なオチにするための、伏線なのだが。これ、落語ならアリだが、映画のオチとしてはダメでしょ(´Д`)
本作で描かれているのは、要するに、死んでいる人を、幕府のエラさんに対して、生きているように見せて地図をまとめる時間稼ぎをする過程のドタバタ劇に過ぎない。余談だが、山田風太郎の短編に『生きている上野介』ってのがあったなぁ……。
肝心の伊能忠敬については、現代劇のパートで、中井貴一が部下や、橋爪功に説明するだけ。予告編を観た人なら、実際に、伊能忠敬がどんな人生を送り、なぜ晩年になってから日本全国を歩いたのか、その艱難辛苦が知りたいのに。ほんと、そういう人には『風雲児たち』を読んで、と言いたい。『解体新書編』に続いて、NHKで(大河ドラマじゃないけど)ドラマ化してもいいくらいだ。いや、普通は伝記を読め、っていうところだろうけど(いや、当然あるだろうお思ってたけど、ホントにあるとかなぁ……。)。
時代劇パートでは、北川景子の美しさと、逆に岸川ゆきのブサイクさ(現代劇だとカワイイのになぁ(^^;))が際立つ。あと、『ゴジラ マイナスワン』で助演男優賞ものだった雪風艦長役の人、同作で初めて観たが、その前にこんな映画にも出てたのね。
あと、喋り方が、時代劇口調と現代劇が混ざった、中途半端で気持ち悪いのも気になった。
さらに、最終的に、大河ドラマシノプシスすら橋爪功に書いてもらえず(高橋景保は大阪出身なので)、なので企画書は完成しない。大河ドラマへの道は、一歩踏み出すどころか、振り出しに戻るという、我々は何を見せられてたんや!? というオチもどうなん? これも、落語ならいいけど……。