思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

三万両五十三次


☆☆★

タイトルからすると、『てなもんや三度笠』みたいな(って言っても、見たことないけど)、脳天気娯楽作かと思ったが、よくわからん塩梅の映画だった。
藩の命運をかけた三万両を江戸から京都に運ぶ護衛に、藩主から指名されたのが、通称「ひょうたん」という侍。本名は知らない、という。そんな正体不明のやつに公式の護衛任務を任せるか? というところからしておかしい。
まあ、彼を探すところから描けるので、吉原での探索とか、そこで者型に巻き込まれる二人の女と、一人の剣豪も登場する。
そして、本作のマクガフィンであるひょうたんも。実は百両だか(うろ覚えなので違うかも)の値打ちものである、という落語『茶碗』のような接点もあるが、マクガフィンなので、さいごまでマスコット的に扱われるだけだ。
主人公は、おそらく歌舞伎スターなのだろか、アイメイクのキツイ、ちょっととぼけたヒゲ面。
中盤の宿でのチャンバラは、劇伴が、だいぶ贔屓目に行ってヒーローチック、悪く言えばコメディチックなので、脱出劇なのに、まったく緊迫感がないのが残念。
逆に、終盤の夜の決闘シーンは命がけの、半ば狂気のような奇声を表現しているとしたら、素晴らしかった。
ところが、クライマックスの街中での乱戦は、またまたシャープな殺陣でこそあるが、また様式に戻ってしまって、悲壮感はかけらもない。
かと思えば、ついに到着して、京都所司代で殿様と対面したひょうたん。幕府の命運を左右する任務に、数名の犠牲はやむを得ない、という殿に、自分ならば一人の命も亡くさずにやりとげたかった、と悔やむ。そこだけは良かったものの、他の部分の演出を観ていると、別に命の大切を描いているわけでもない、というバランスがよくわからない作品。
良いところと悪いところがバラバラにある、という感じ。

1952年 日本