思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

十二人の優しい日本人


☆☆☆★

十二人の怒れる男』は社会人なりたて前後くらいに観て、面白かったので、それの日本版である本作にも当然期待していたが、テレビでやってくれないので見る機会がなかった。ようやくレンタルで視聴。
まず驚いたのが、三谷幸喜は脚本だけで、監督はしていないこと。『ラジヲの時間』が初監督で、本作はそれより前??
タイトルからもわかるように、本作の陪審員には、女性も3人含まれている。考えたら、法廷映画とか見ればアメリカだって女性陪審員もいる。戦前は女性には選挙権もないから、陪審員にもならなかったのかな?
そもそも、現代日本には陪審員制度はない(本作の元の舞台劇にしても、裁判員制度ができる前)ので、設定というか、前提じたいが架空の話。『十二人の怒れる男』と、陪審員制度を知らない人には理解しづらい/ハードルが高い作品じゃないかなぁ……。まるで「異世界もの」のようだ。もちろん、作り手も十分に承知しているから、作中では何度も進行役の人が「ハンドブック」を読み上げたりするのだが。まあ、基本的には裁判官がやる裁判を、一般人が十二人でやる、というだけの理解でも構わないのだが。
三谷幸喜ならではの、自意識丸出しの個性豊かな登場人物たちの喜劇を楽しみつつ、どんでん返しにつぐどんでん返しを楽しめばよい。最初に出た手がかりからの推理を、別の手がかりからひっくり返すのはツイスト好きにはたまらないだろう。ただし、裁判の詳細は隠されているので、後出し感は否めない。このあたりは、素人が、裁判の全てを覚えていられない、というある意味リアルな部分をうまく取り入れていると思う。
ただ、願わくば、舞台ならこれでもいいが、「裁判編」と「陪審員編」の2部構成にして欲しかった。
部屋から一歩も出ない、まさに舞台劇のようだった『怒れる男』と違い、庭(?)や廊下など、微妙に部屋の外に出るのは潔くないと感じた。
キャリアウーマンみたいな女が、モロに福島瑞穂みたいで笑えるんだか笑えないんだか(´Д`)
『怒れる男』では、最初はみんな有罪で主人公だけ無罪だったのが、本作では逆で、ひとりだけ有罪、というのが面白いところ。DV夫を道路に突き飛ばして死んだのは、正当防衛か否か、という事件にしているのだ。
本作の問題は、主人公が、最初から唯一の有罪で、最初から最後まで「とにかく話し合いましょう」としか言わない。それこそ最初のうちは、民主的な人なのかと思えるが、終盤では、単なる偏執者(変質者と同じに読めるが、へんしゅうしゃ)にしか思えない。最後に明かされるその理由も、ちょっと納得できない。

以下ネタバレ

その理由というか、オチとなるのが、「被告人はあなたの奥さんとは違うんですよ」というもの。自分と似た境遇だから、自分の奥さんに対する恨みつらみを被告にぶつける、という構成は分かるが、本作の場合、「ほんとに主人公の奥さんが被告?」と勘違いする人が少なからずいるんじゃないかなぁ。もちろん、ちょっとでも陪審員について知っていれば、事件関係者は陪審員になれないとか、知っているはずだが。本作では、オチの切れ味を鋭くするため、余計な説明を省いているので、アンビバレンツなところだが。
百歩譲って、個人的な恨み(というか偏見?)のある主人公なら、「話し合いましょう」と言うのではなく、ほかの登場人物と同じように、感情的なキャラにするべき。主人公ひとりがそこまで突出してキャラが立っているわけではないが、ここは普通に進行役の人か、豊川悦司演じる弁護士/俳優を中心人物にするべきだったんじゃないかなぁ。
なお、途中のツイストで、「ジンジャエール」の扱いは出色だが、逆に信号ってのは納得いかないなぁ。あとは被告が走りが得意だから、という前提であれこれ議論するところも、尺を稼ぐための余計なツイスト、という感じがする。ビザを頼んだり、庭に出るくだりも。