思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

フォードVSフェラーリ

☆☆☆★

各所で絶賛されているので期待したのだが、なんだか、それこそ最後までレッドゾーンに到達しない、モヤモヤした作品だった。いいところもいくつもあるんだけど。
そもそも、ダブル主演の片方である、マット•デイモンが好きじゃないからなぁ……。実写版ジャイアンみたいないじめっ子で、大学生みたいな演技しかできない、という印象は、本作では顕著だった。
もう片方のクリスチャン•ベールは、発達障害的な天才ドライバーにして車の構造にもくわしい。そんなやつらおらへんやろーと言いたくなるが、実話ベースだから、いたんだろう。
本作は、フォードがフェラーリ社の買収を蹴っ飛ばされた腹いせに、ル・マン24時間耐久レースに勝つ、という目標をぶち上げる。そもそも動機からして、『下町ロケット』なんかと比べて(と言っても未見だから、世間的には言われてるイメージだけからの推測)はるかに低俗だ。
そもそもフォードって、大衆むけ車の会社で、ホンダやトヨタがF-1に参戦するよりも畑違いな感じがしてしまう。これはアメ車の知識が皆無なので、先入観だけど。まるで、シャーマンでタイガー戦車にタイマン勝負を挑むようにしか見えない。
デザイン重視の私なので、フェラーリの美しさは言わずと知れたもの。ところが冒頭に出てくるそれまでのフォードのレース車はダサい。ところがクリスチャン•ベール演じるケンが開発したやつは、平らに細いフロントから、後端はスパッと斜めに切り落としたようで、普通に格好いいのだ。
後は、ブレーキディスクが加熱して赤く光るビジュアルは、SFメカみたいで(^^;)格好良かった。
これは観ている間は言語化出来なかったが、批判的なYouTube動画であったように、この映画には、レースもの、なかんずく車体改良ものとしての、ロジック、演出が抜けているのだ。
じゃあ、なんで勝てたのかといえば、ケンという天才ドライバーが、実力をフルに発揮できる車がいつのまにか用意されたから、というだけ。大多数の人は、メカニック的なところなんて興味もないし、理解もできないだろうから、スッポリ飛ばしたのだろうか。2時間半超えの長尺なのに、だ。
では何が長いのか、といえば、主にマット側から見たケンとの関係性、ひいては彼の協調性のない天才と、大企業病に支配されたボスたちとの板挟みだ。特に、マット嫌いということもあるかもしれないが、エピローグにあたる部分は、尺的にも、間の取りすぎの演出など、長すぎる。
レースシーンそのものは本物の迫力があるのだが、先に書いたような、ドライビング•テクニックとしての駆け引きなんてのはない。
本来なら、最強レースカー開発の苦労話か、レース中の駆け引きに絞るべきだったんじゃないなかなあ。後者は、そもそも史実として存在しないから、描けなかったのかね。
ル・マン前に手書きのコース全図をなぞりながら息子に説明するくだりは良い演出なのに、それが全然活きていない。もちろん、現在どのへんを走ってて、ゴールまでどれくらいの位置なのか、というのを観客にわからせる効果は大きいのだが、そもそもル・マンって、このコースを何十周、何百周もするんだからね。3周くらいなら別だけど。それに、追い越すために、直線ではスリップストリームで、カープ抜く、みたいな駆け引きも30分以上あったんじゃないか、というレースシーンでも、2、3回あっただけかも何の説明もなし(^^;)
本作にあるのは、人間ドラマと、レースの上辺だけ。
人間ドラマでは、ケンの奥さん役の女優さんは良かった。どこかで観たと思ったんだけど、調べた限りでは、勘違いらしい。どこかフランス人っぽく、ジュリエット•ヴィノシュ好きの私にはストライクだったのかも。スタイルもメチャ良かったなぁ。
クリスチャン•ベールとマット•デイモンがケンカするシーンは、新旧バットマンの対決!? と楽しかったが、バットマン要素を少しだけでも入れて欲しかったかも(^^;)(追記 ……と思っていたのだが、マット•デイモンじゃなくてベン•アフレックだった。二人は友人みたいだし、『最後の決闘裁判』みたいに同じ映画に関わったりして、勘違いしやすいんだよなぁ。という言い訳)
結論としては、人間ドラマと、最速マシン開発史の、二兎を追って、どっちつかずになった印象。天才ドライバーはケンだけでなく、3位まで独占なので、ドライバーの腕やりも、マシンの性能なんだろう。本作から伺える範囲では、大衆車しか作ったことのないフォードが最強レースカーを開発できたのは、最高のテストパイロットであるケンのおかげ以外の何ものでもない。まさに、アムロとニュー•ガンダムみたいなものか。となると、それをこそメインにして、レースシーンなんて、5分くらいで良かったし、なんならなくてもいいくらい(^^;)
アポロ13』のロン•ハワードとかに撮らせたら、もっとうまく面白くなったんじゃないかなあ。

以下ネタバレ

エピローグとも言える、ル・マン優勝後のシーンの後は、10分くらいはあって、この手の史実ベースものによくあるように、テロップで2画面くらい出して、観客に想像させればいい内容(ケンはテスト中の事故で死んだ、と一文で済む話)だし、演技を見せようとする長い間があって完全に蛇足。