思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

『最後の決闘裁判』☆☆☆☆

久々に一気見してしまった。それくらい面白い、というより完成度が高い。
ビジュアル的な完成度も『ロード・オブ・ザ・リング』を彷彿とさせるくらい凝っているし、劇伴も久々にサントラがほしくなるくらいメロディアスで好み。
話じたいは、14世紀のヨーロッパで、妻を親友に寝取られたとある騎士が、領主が親友側なので、それを飛び越えてフランス国王に訴え、決闘で白黒つけることになった、という事実を元にしたらしい話。
構造は、黒澤明羅生門』をベースにしているが、妻の話を「真実」と既定しているところが大きく違うところ。
同じ話を3回観ることになるので、2回目、ひいては3回目になると退屈するかと思いきや、ミステリーのてがかり、あるいは間違い探し的に見入ってしまうところは演出・編集の巧みさが窺えるところだ。どこがどう、とは言えないけれど。
CGを使った中世の情景を含め、重厚な世界観を堪能しつつ、当時の貴族観、騎士観、結婚観なども分かる。
観賞・理解する際に注意しておいたほうがいいと思うのは、そういう中世の風習を「現代の映画製作者が、現代の観客に見せるために作った」という点だ。乱暴に言えば、中世の事件を通じて、現代の人々に特定の方向(フェミニズムリベラリズム)に誘導したい、という意図があるのだ。
決闘シーンは、冒頭に「ヒキ」として見せておいて、全貌はラストにおあずけ、という構成。剣道的に馬上槍試合の1突きで終わりかと思いきや、数回木製槍を取り替えつつ、落馬したら手持ち武器で命を取るまでやりあう、というのが意外で燃える展開だった。

以下ネタバレ

基本的には全方位的に完成度の高い映画なのだが、気になった点が2つ。
1つは、肝心要たるレイプの描写。2部と3部では、レイプしたという事実(厳密には交わったという事実)にはほぼ違いが見られない。その細かい差異から、当時の女性の立ち位置を踏まえて解釈してほしい、という演出意図は分かるのだが。
特にそのための手がかりとしてあるのが、妻の義母が「私も過去にレイプされたことがある」と妻に語るシーンだ。ただ、個人的にはそのセリフへ至る直前に「あなたもレイプされてみたらいいのよ」と投げつけた後の切り返しのセリフだったらなお良かったんじゃないかと思ったのだが。
もう1つは、ある意味では致命的な問題かも。決闘で大腿部の大動脈を切られたマット・デイモンの状態を見ていたライバルの上司たる領主が「出血多量で死ぬ」と言っていたのに、決闘に勝った上、パレードを終えるまで手当てもしていないのに、普通に生きながらえていたこと。もちろん、第三者の勝手な見込みなので、その通りにならなくてもいいのだが、そうであれば、「致命傷なんじゃないか!?」と放言するように言わせるべきなんじゃないか?(原語やセリフではそうなっていたのに、翻訳がまずいだけかもしれいないが)