思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

『そして誰も死ななかった』

『そして誰も死ななかった』白井智之
☆☆☆☆★
角川書店

これぞ新本格
最初は文章のぎこちなさや、とても感情移入できない主人公の設定に、とっつきにくいのだが、中盤を超えて『そして誰もいなくなった』状況になると、ミステリ読みなら、のめり込まずにはおれない。
主人公は、父親の遺品の中にあった未発表原稿を出版社に送り、それかまベストセラーになっただけで、性格はやさぐれ。仕事はデリヘルの店長。探偵は、(まあ、ほどほどのミステリ読みなら分かると思うのでネタバレ扱いしなくてもいいだろう)デリヘル嬢兼ミステリ作家。石崎幸二麻耶雄嵩か、という設定だ。
ミステリ作家ばかりが孤島に集められるという設定は、新本格ではちょくちょくあるが、これが誰も彼もミステリ作家っぽくない。それが、最後にはきっちり推理合戦という盛り上がりに結実するのが燃える。逆に言えば、途中の描写に、作家らしさが加味されていればもっと良くなるのかも。
ただ、ラストの、怒涛のどんでん返し(推理合戦)の魅力は、まさに新本格の醍醐味である。

以下、ネタバレ

本作のタイトルだが、孤島に到着するや、一夜明けると主人公は殺される。「え?」となるが、それが生き返る。本作はゾンビもの、要するに『そして誰もいなくなった』ではなく、『生ける屍の死』のオマージュでもあるのだ。主人公だけでなく、登場人物の誰も彼もが生き返るのが特徴。これについては、序盤のやさぐれハードボイルド的なエピソードや、東南アジアの土着民族の、SF的な父の推理小説の設定が伏線として効いてくる。読み終えてみれば、ゾンビものとしてのお膳立てであった。

さらにネタバレ

本作でもっとも興奮したのは、誰も犯人ではなかった説で決着した後、東京に戻る船の上で、アクション込みで真の真相が明らかになる件だ。ある種の「事故」説では、意外ではあるが、物足りなさが残るが、それを否定してからのオーソドックスな真相、というオチが上手い。
各人それぞれに推理があるのて で、大まかに言えば、6つのどんでん返しがあることになる。