思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

『闇の喇叭』有栖川有栖
☆☆☆
講談社

トリック自体はいかにも新本格的な、現実味のないものだが、フーダニットとしてはまあまあ。
それよりも、パラレル日本ともいうべき世界設定こそが作者が書きたかったものだろう。日本に三発めの原爆が落とされ、北海道がソ連に占領された世界。細かいことはいろいろあるが、作中人物に仮託して、けっこう保守的・愛国的なことを主張している。石持浅海の世界設定が、あくまでもテロが日常である日本を肯定するために構築されたものであるのに対して、本作は、珍しく作者が主張したいことをパラレルワールドというオブラートに包むための、右翼的ミステリーというべきものだろう。
同じくパラレルワールドであるが、探偵が全面に出ている山口雅也キッド・ピストルズ』シリーズとは好対照なのが面白いところ。
作者の鉄道愛が、ローカル線の細かい描写に垣間見えるのも微笑ましい。
本格ミステリというより、右翼的ライトミステリーとしての今後が気になるシリーズだ。