思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

『永遠の0』百田尚樹
☆☆☆☆★
講談社文庫
読者家・故・児玉清氏の解説を読めば良い。
それに抜けている部分は…。
まず、これがリベラリストばかりの戦後日本ミステリー界にあって、希有な保守的ミステリーだということだ。
なぜ特攻というものに多くの日本人(というより、私たちの先達というべきだろう)が進んで行ったのか。
架空の宮部という主人公の祖父について調べるという形で、零戦乗りの実像に迫る。
面白いのが、先輩・後輩パイロットのみならず、整備兵まで、色々な指摘で語られるところだ。
これによって零戦乗りとはどういうものか、多角的に知ることができる。
先に保守的と書いたがそれが端的に現れているのが、朝○新聞をモデルにしていると思われる記者の設定で、作中においてイスラム自爆テロと特攻を同一視する彼のイデオロギーは完全に否定される。
兵士たちの視点での大東亜戦争についての記述は十分正しいし、エリートたちが敗戦の元凶だという指摘もしっかりなされている。
惜しむらくは、開戦の理由が白人たちの有色人種国への侵略からの防衛戦争である、という大局的指摘と、なぜ捕虜になることを禁じたのかという理由が白人たちの虐殺(皆殺し)にあったという事実だ。、が、まあそのへんは、兵士たちの視点から描かれた本作のコンセプトから多少外れなくもないので、盛り込みすぎないほうが良かったのかも(その割に真珠湾攻撃の宣戦布告翻訳をサボった外務官僚についても触れてたりするが…)。
敢えてミステリーにしなくても、戦記ものとしても十分な完全度だと思う。妻子に会うために何があっても生き残ろとした宮部が特攻するに至った謎は、ちょっと泣かせようとしすぎな感じもあるが、一般受けしそうだし(現に私もちょっとうるっと来た)、全体の構成としては良くできていると思う。
構成と言えば、本作は奇しくも主人公である宮部と同じ、宮部みゆきに近い作風だ。