思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

エウロパ

☆☆☆★

原題は『EUROPA REPORT』。
アポロ18』のような感じ。低予算ながら、宇宙船の室内セットとエクステリア、惑星のCGに集中して金をかけることで、安っぽさを感じさせない。
記者会見と、ディスカバリーチャンネルのインタビューみたいなカットを除くと、ほぼ全てがゴープロ的な記録用カメラの映像。宇宙船の内外に20個くらいありそうなのと、宇宙服の顔のカメラ(目線カメラはともかく、記録用としては不自然かな?)などを編集してある。
SF映画100』で紹介されていたところからの予想で、『エイリアン』みたいな映画かと勝手に思い込んでいたら、最後の最後に一瞬だけアレが映る、というアメリカのテレビ特撮映画的な感じ。ひたすら地味で、ハードSF的なセンス・オブ・ワンダーもあまりない。むしろ『サーチ』みたいな印象だった。
土星や、エウロパの映像はちゃんと観測衛星のデータを基にしていて、美しかった。これを観られるだけでもいいのかもしれない。エウロパの地表の低Gがイマイチ表現されていないのが、唯一にして大問題かな。多分月よりも小さいでしょ?

以下ネタバレ

本作はモキュメンタリーなのか、ロスト・フッテージか最後までわからない構成にしているのが面白い。クルーの一人のインタビューのような映像も、実は自分に記録カメラを向けて喋ってました、というオチ。まあ『オデッセイ』でマット・デイモンも同じことしてたので、自己顕示欲の塊かい!? とばかりも言えないし。
そのくせ、記者会見の映像や、プロジェクトマネージャーのインタビューも織り交ぜて、それこそ映画全体がディスカバリー・チャンネル的に編集されている。そういう意味ではフェイク・ドキュメント。
エイリアンは引っ張って引っ張って、最後の1秒くらいしか全体像を映さない。ドゴラみたいで、『SF映画100』の紹介文は、ちょっと盛りすぎな気がしたけどね。

兇人邸の殺人

今村昌弘
☆☆☆☆
東京創元社

毎回、タイトルはダブルミーニング、というよりダジャレなのだが、本作では、作中に登場するまで予想もしなかった、巨人がテーマ。といっても、読売巨人軍の秋季キャンプ施設、とかではない。そんなミステリーだったなら楽しそうなのだが。
本作では、探偵役の剣持さんは、そうそうに閉じ込められ、期せずして(望まずして)安楽椅子探偵を演じることになる。
やっていることは、『屍人荘の殺人』とじつは大差なくて、モンスターの襲撃を避けつつ、異常な状況の中で発生した殺人事件の犯人も推理しなければならない、というもの。
本作を読み終えて確信したが、このシリーズ、本格ミステリマニアが主人公であり、作中でもホームズだのワトソンだのを自称したり他称したりするので騙され(ミスディレクションされ)がちだが、本格ミステリじゃないよ。ミステリSFだ。ただし、本格の。
ミステリとしては凄いのが、定番であるトリックやプロットを何重にも、一次元ではなく二次元的に組み合わせていること。犯人の数、その動機、時間差など、これだけ複雑なプロットを初読で看破できる人はいないんじゃないだろうか??
なお、「巨人が暴れている」という様な通報をしたら、警察のほうではNBC対策チームを出すのか悩んだ、とあるが、この展開はどうだろう。だって『屍人荘の殺人』ではゾンビがフェスを大混乱に陥れてる、という世界観のシリーズだぜ?!
このように、ミステリとしては第一級だが、ホラーまたはエンタメとしてのストーリーは、ラノベレベルかな、というのが私のようなノーテンキなミステリーファンには、逆に欠点になっている、なんとも二兎を追う結果、本格ミステリファンの評価は最高だが、ライトな読者にはもう一歩、という仕上がり。

以下ネタバレ

剛力女史がナルコレプシーというのも、これまた無理矢理な設定。てっきりジキルとハイド的なキャラだと思ったのに、レッドヘリングだったか(´Д`) それにしては物語的な必然性がないのが残念。
「猿」のほうは、真相が明かされるちょっとだけ前に気づいたけど。

インセプション 再


☆☆☆★

映像のインパクトが強いので、劇場公開時に観た時には面白かったが、ストーリーを知って観ると、設定の破綻、展開の無理矢理感ばかりが目につく(^^;)
宇多丸師匠も言ってたが、主人公であるデカプリオも、一見、格好良さげだが、実は自分自身もトラウマに翻弄されて、仕事もトラブル続き。ほとんどヤクザとかノワールの犯罪映画みたいなドタバタ劇と思っていい。一番格好いいのは、初見時と多分同じで、オールバックの執事然とした人。
意外だったのが、潜入作戦を実行したのは、冒頭のツカミをのぞけば、一度だけだった、ということ。ある意味でこの映画で一番有名な、パリの街が折れ曲がるシーンは、チュートリアル的な説明シーンなんだよねえ。
夢で下の階層に降りる時も、それぞれ別の人の夢になって、それで目的が達成できるのか? なんか『ジョジョ』の4部でディオが止めた時間で、承太郎が時を止めたからって動けるようになる? というのと同じ疑問が湧く。
時間が異なる、という表現は、ノーランが偏執しているテーマ。階層を下りるごとに遅くなるという設定は、車が川に落ちるまでのタイムリミット・サスペンスという役にしか立っていない。
また、そもそものタイムラインの入れ替えもノーランの十八番だが、これも毎回やってる割に、わかりにくくなっているだけなのだが、本作に限っては、冒頭のシーンがクライマックスに繋がり、うまくいっていると思う。
ラスト、コマを回して「回転が止まるか止まらないか問題」だが、今回観てわかった。これは、画面で止まるところを映していないんだから、「止まらない」という表現なのだ。だって、「コマが止まる=現実」だと言いたいなら、止まるところを映せばいいんだからね。

レッド・スネイク


☆☆☆★

イスイス団、人呼んでイスラム国が暴れている中東で、虐げられ、弱者とされていた、女ばかりの軍隊があった。そんな事実を元にした作品。
作中でも、イスラム語と英語が混在している(らしい。字幕版での印象)。
原題は読めなかったが、女だけの部隊で、それぞれがコードネームをつけるが、主人公か自分でつけたのがレッド・スネイク。
女性部隊としか書けないので補足すると、別にシリア正規軍の一部ではなく、民兵といか、私兵というか、ゲリラというか、よく分からない。ちゃんとキャンプとかくんれんじょもあるが、武器は手持ち火器レベル。車両は中東でお馴染みのピックアップトラックだが、これはイスイス団も同じだし。
イスイス団に親を殺され、弟を拉致され、主人公は幹部の女奴隷にされる。前半は脱出するまで。それと並行して、『ベイビーわるきゅーれ』ばりに能天気な女の子友達が女性部隊に入って訓練するストーリーが交互にえがかれる。後半は主人公が脱出し、たまたま女性部隊に助けられたので部隊に入ることになる。
主人公のほうは、尺の都合で省略したのかもしれないが、特に訓練したわけでもないのに、足手まといになることもない。
設定だけ聞くと、実写版『レア・ガルフォース』みたいな内容を期待したのだが、そういう爽快感はあまりない。あ、そういや、ほとんど忘れてたけど、あっちにも爽快感はなかったか(^_^;)
女性なので、捕虜になったりでもしたら悲惨なことになるのだが、そういうシーンはなく(あくまでも実話を元にしているので?)、拳銃の弾丸は1発残しておくこと、とか、自決用に手榴弾を使ったりと、ちゃんと対策している。
訓練シーンで、歌もの曲がBGMとして使われたり、みょうに陽気なところと、ホモソーシャル的な仲間意識とか共存する作品。

以下ネタバレ

主人公を買って犯したイスイス団の部隊長をたまたま中盤に捉えて、復讐(殺害)するのだが、その後に特に因縁のない幹部の一人をやっつけるので、映画的な盛り上がりには欠ける。そこはウソでも、幹部と一緒に居させて、幹部を殺している裏側(カットバック)で復讐を遂げるシーンを入れたら良かったのに。

紫頭巾

☆☆★

女優で観る昔の映画シリーズ。本作では、千原しのぶがしゅっとした(女性には使わない表現?)美人で良かった。私の好きな山本富士子系というか。
マニアックな視点から度肝を抜かれたのが、映画が残り10分くらいになって、踊り/ダンスシーンが始まったこと。普通なら、こういうある種のダレ場は、中盤くらいに(今思い至ったが、トイレタイムに使ってね、という親切設計なのか?)あるものだが。ハリウッドの大作である、クライマックスに悪の儀式が始まる、的な置かれ方なのだ(^^;) やってることは能天気な舞なのだが。
遡って序盤。江戸の話題をさらっている浮世絵師、彦摩呂? じゃなくて「なんとか麻呂」がいて、謎の絵師とされている。明らかに写楽をモチーフにしたようなキャラがいるのだが、そいつがあっさりと登場する。悪役のほうに抱えられて絵を描いたりするのだが、最後の舞の後に出てくる、というのだが、はっきり言って、何の意味があるのか全然分からん(^^;)
ビジュアル担当なのかと思いきや、醜い老人だし。せめて、紫頭巾が、彼が講談挿絵で描いたオリジナルのヒーローが、実際に登場した、的な流れなら存在意義があったのだが……。
あとは、田沼意次が悪代官的な役割で出てくるのだが、昔はこっちが共通イメージだったので、『風雲児たち』から田沼意次を知った私からすると、逆に違和感があった。
あとは、全編に渡って、ほとんど影が全くないんじゃないか、というくらい照明が当たっていて、ある意味では豪華絢爛だが、平板というか、それこそ日本画的な二次元っぽい画面になっている。特に室内は、天井に蛍光灯かあるんじゃないか、という異常な明るさ。
紫頭巾は、喋り方が特徴的な片岡知恵蔵で、素顔でも道場破りを撃退する際に、同じ構えをとってしまうという、うかつというか、視聴者に対して親切設計というか……(^^;)
なお、特に前半、非常にイライラさせられたのが、基本的にセリフが聞き取りづらいこと。昔の邦画にはちょくちょくあるんだよなぁ(´Д`)主人公だけでなく、敵も暗殺とかを多用するから、覆面キャラが多い、というのも相まって。アフレコしてくれ。

特 刀剣乱舞 花丸 花の章

☆☆★

当然(?)川井憲次さんの音楽が だけが目的。シリーズ一作目はまあまあで、二作目はスルー。
今回は受け付けない部分が気になって、ダメだった。
川井さんの曲も、バトルもあるが、クライマックスにしても、待ってるメンバーのお祈りシーンとのカットバック編集のため、一本調子(というと悪い感じだが、良い意味で)で盛り上がらず、寸止め感がある。
不満点を列挙。
予告編から危惧していたダンスシーン。踊ることそれ自体の是非には触れないとして、よくある3DCGではなく、手書きで4人を頑張って動かしていたのは良かった。だが、わざわざ道端で和楽器のグループ(?)に演奏させておいて、ダンスにかかるのがドラムとかシンセのビートありの劇伴を川井さんに書かせるとは何事か!? そうするなら、劇中では音は鳴っていない事にするか、川井さんには、劇中に登場する楽器だけという発注で作曲してもらわないと(´Д`)(たぶん、そういうのは無視して、和風っぽいダンス曲、というオーダーだったんじゃないかなぁ)
テレビシリーズのころから、宇多丸師匠が『ガルパン劇場版』の時に評した「摩擦係数ゼロの人間関係」が、本作でもまさに当てはまっていて、非常に気色悪かった。今回の映画で、何に例えればいいのかようやく分かった。まるで小学生の男の子が活躍するアニメみたいなのだ。言葉尻が「だね」とか「だよ」ばかりなのも、オカマみたい、とも違うし、モヤモヤしていたのだが、小学生が主役の劇場オリジナルアニメとかにはよかあるパターンじゃない?
現実で考えれば、これだけたくさんの軍人が集まって、確執が起きない訳がないのだが、原作であるゲームとして考えれば、相性の良し悪しでユニットの戦闘力が変化する……というのはシミュレーションとしてはアリか(^^;) むしろ、萌え系ゲームとして、相性がわるいキャラを作ると、キャラ人気に凸凹が出来るのを嫌った、マーケティング上の養成だろう。この手のゲーム全般に言えることだろうけど。
夢の中というか、精神世界での戦い、というのはよほど慎重にしないと、テキトーでいい、という感じになるが、本作では悪い方に転んでいる。夢の中の平和な本陣のキャラが突然消えるのも、理由が分からんし。古代魚みたいな敵も、これまでの鬼型以上にキャラが弱いし、CG製のラスボスがこれまたキャラが弱い(´Д`)
さらに問題なのは、ラスボスを倒しても問題が解決しないこと。「あるじ」たる、誰だか分からない(誰でもなくて、誰でもある。男でも女でも受けるように、セリフすらない)やつを助けるため、と言われてもなあ。もし観客の心を救う、というなら、これまでの関係性を想起、掘り返すような、画面に向けて語りかけるような方向性で演出すべきで、本作で描かれているのは真逆。
何より、「祈り」で解決するなら、夢の中に入る必要もバトルの必要もなかったやん(´Д`)
夢の中での、建物の爆発の煙の作画は素晴らしかったけど。
そもそもだが、男だか女の子だか一見して区別できないキャラデザインには、いまだに受け付けない部分があるし(^^;)昔、小中学のころ、アニメ『パタリロ』を観ていて、今週に出てきたキャラこそ女性だろ、と思ったら「おまえも男かい!?」というのと似た感じ。

ウルフズ・コール

☆☆☆★

潜水艦映画にハズレなし、と言われるが、本作は色んな意味で観客の斜め上が下を行く作品。
主人公は潜水艦のソナーマンで、作戦任務中に「狼の鳴き声」のような謎の音を聴いた事から物語は始まる。このあらすじを読んだだけで、面白そうな感じはあったが……。
戦争ものに詳しい人なら、戦車もので似たような設定の『ホワイトタイガー』を連想すると思うが、それとは全く違うテイストの映画。テイストのみならず、よくある戦争エンタメとも変わった展開になる。
ちなみに、「狼の鳴き声」が意味が分からん、と思われるだろうが、原題は『un chant de loupe』とかいうの。忘れかけのフランス語知識だと『迷いの宮殿』?後で調べねば(^^;)
ソナーマンが主役ということで、恋人がバーで近づいて来る事が分かるから驚かせられないとか、上官のパソコンのパスワードを、キーボードのキータッチ音から絞り込む(結局失敗するんだけど)とか、面白い要素はあるのだが、後半には優秀さが全然発揮されないどころか、任務放棄さてフテ寝してたら魚雷爆発の事故で負傷し、何故か彼と提督だけ生き残って脱出ハッチから提督の命をかけて押し出される。そもそも、上官の艦長と一緒に最新の戦略ミサイル原潜に乗れなかったのが、大麻をやってた事が検査でバレたって……。それこそ、『沈黙の艦隊』みたいに、やまとのような極秘任務につけるための上の工作かと思ったら、そうでもない。これじゃ、主人公は女性にしとけば、ラストでひとりだけ脱出させようとする理由として多少の説得力を持つと思うのだが……。
まあまあの政治と戦略、潜水艦の知識があって、頭をまっさらにして観れば楽しめると思うが、色んな意味でも観る人を選ぶニッチすぎる映画と言える。『沈黙の艦隊』を全巻読んでいれば充分だが。
ミリオタ的には、フランス海軍全面協力とのことで、最新の潜水艦の内部がたっぷり映る(もちろん、軍機部分は映さなかったり、想像でセットを作って撮影してるんだろうけど)のが見どころ。

以下ネタバレ

中盤くらいまでは素直に面白いのだ。データにない音源が、ソ連の古い原潜を中東のテロ組織に売られていて、同型艦が退役したころに、無弾頭弾道ミサイルをロシア艦のいそうなところからフランスに射って、反撃の核ミサイルを撃たせ、大国間の核戦争を起こさせよう、というイスラム勢力の計画は、マンガチックでフィクションとしては面白い。
ただ、弾道がないことを飛行音が軽い事で見抜くのは百歩譲って良いとして(コンピュータの解析とかもあるしね)、それをどこでどうやって採取(録音)したのよ?(´Д`)いや、観ている最中には気づかなかったんだけどさあ(^^;)
戦略ミサイル原潜は何十年も前から配備されているので、もしかしたらそのどれもが、出港直後に、本作と同じような大統領命令の暗号とセットの「核のボタン」を携えるのかもしれないが、そのへんの知識のない人には、まるでそれも含めた巨大な陰謀でもあったかのようなタイミングの良さ(悪さ)に見えない? 核のボタンの発射プロセスを映像化したのは興味深いと思うが、どこまでが事実なんだろうねえ。すくなくとも、パソコンの拡張ボードみたいなのを胸元に忍ばせて、それを発射するぞ、って時に差し込む、というのはあり得ないと思った(^^;)
弾道ミサイルが核ではない事が分かってからの展開は、まるでダメな邦画を観ているかのような人間ドラマ的に、その場を盛り上げるためだけの政治的にも軍事的にもダメダメな、直情的な行動。それは主人公だけでなく、乗り込んで来た提督の命令を聞かないのは、艦長のほうがある意味艦内では偉いから不問にしても、魚雷発射扉から潜水服で出て行く、って、それこそ日本映画以外ではなさそうなバカバカしさ。どうもハンマーで相手の潜水艦の外壁を叩いて合図しようとしたようだ。ところが、そこまでやっといて、目標の、潜水艦にたどり着く直前に、発射された魚雷の乱流に巻き込まれて死亡。リアルにしたいのか、ファンタジーでも人情を優先さたのか、どっちかにしてくれ!(^^;)
沈黙の艦隊』ファンからすると、ピンガーを使えば、存在感を示して躊躇させるとか、モールス的に使うとか、もっと制止できそうなのに……と隔靴掻痒だった。
新型原潜の方は、命令通り無線封鎖して核ミサイルを発射しようとするので、もしかして、まさかの『世界大戦争』的な、アンチ・クライマックスものか? という予感も。結局は、その中間というか、主人公の乗るほうが、沈没して、新型のほうは