思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

ウルフズ・コール

☆☆☆★

潜水艦映画にハズレなし、と言われるが、本作は色んな意味で観客の斜め上が下を行く作品。
主人公は潜水艦のソナーマンで、作戦任務中に「狼の鳴き声」のような謎の音を聴いた事から物語は始まる。このあらすじを読んだだけで、面白そうな感じはあったが……。
戦争ものに詳しい人なら、戦車もので似たような設定の『ホワイトタイガー』を連想すると思うが、それとは全く違うテイストの映画。テイストのみならず、よくある戦争エンタメとも変わった展開になる。
ちなみに、「狼の鳴き声」が意味が分からん、と思われるだろうが、原題は『un chant de loupe』とかいうの。忘れかけのフランス語知識だと『迷いの宮殿』?後で調べねば(^^;)
ソナーマンが主役ということで、恋人がバーで近づいて来る事が分かるから驚かせられないとか、上官のパソコンのパスワードを、キーボードのキータッチ音から絞り込む(結局失敗するんだけど)とか、面白い要素はあるのだが、後半には優秀さが全然発揮されないどころか、任務放棄さてフテ寝してたら魚雷爆発の事故で負傷し、何故か彼と提督だけ生き残って脱出ハッチから提督の命をかけて押し出される。そもそも、上官の艦長と一緒に最新の戦略ミサイル原潜に乗れなかったのが、大麻をやってた事が検査でバレたって……。それこそ、『沈黙の艦隊』みたいに、やまとのような極秘任務につけるための上の工作かと思ったら、そうでもない。これじゃ、主人公は女性にしとけば、ラストでひとりだけ脱出させようとする理由として多少の説得力を持つと思うのだが……。
まあまあの政治と戦略、潜水艦の知識があって、頭をまっさらにして観れば楽しめると思うが、色んな意味でも観る人を選ぶニッチすぎる映画と言える。『沈黙の艦隊』を全巻読んでいれば充分だが。
ミリオタ的には、フランス海軍全面協力とのことで、最新の潜水艦の内部がたっぷり映る(もちろん、軍機部分は映さなかったり、想像でセットを作って撮影してるんだろうけど)のが見どころ。

以下ネタバレ

中盤くらいまでは素直に面白いのだ。データにない音源が、ソ連の古い原潜を中東のテロ組織に売られていて、同型艦が退役したころに、無弾頭弾道ミサイルをロシア艦のいそうなところからフランスに射って、反撃の核ミサイルを撃たせ、大国間の核戦争を起こさせよう、というイスラム勢力の計画は、マンガチックでフィクションとしては面白い。
ただ、弾道がないことを飛行音が軽い事で見抜くのは百歩譲って良いとして(コンピュータの解析とかもあるしね)、それをどこでどうやって採取(録音)したのよ?(´Д`)いや、観ている最中には気づかなかったんだけどさあ(^^;)
戦略ミサイル原潜は何十年も前から配備されているので、もしかしたらそのどれもが、出港直後に、本作と同じような大統領命令の暗号とセットの「核のボタン」を携えるのかもしれないが、そのへんの知識のない人には、まるでそれも含めた巨大な陰謀でもあったかのようなタイミングの良さ(悪さ)に見えない? 核のボタンの発射プロセスを映像化したのは興味深いと思うが、どこまでが事実なんだろうねえ。すくなくとも、パソコンの拡張ボードみたいなのを胸元に忍ばせて、それを発射するぞ、って時に差し込む、というのはあり得ないと思った(^^;)
弾道ミサイルが核ではない事が分かってからの展開は、まるでダメな邦画を観ているかのような人間ドラマ的に、その場を盛り上げるためだけの政治的にも軍事的にもダメダメな、直情的な行動。それは主人公だけでなく、乗り込んで来た提督の命令を聞かないのは、艦長のほうがある意味艦内では偉いから不問にしても、魚雷発射扉から潜水服で出て行く、って、それこそ日本映画以外ではなさそうなバカバカしさ。どうもハンマーで相手の潜水艦の外壁を叩いて合図しようとしたようだ。ところが、そこまでやっといて、目標の、潜水艦にたどり着く直前に、発射された魚雷の乱流に巻き込まれて死亡。リアルにしたいのか、ファンタジーでも人情を優先さたのか、どっちかにしてくれ!(^^;)
沈黙の艦隊』ファンからすると、ピンガーを使えば、存在感を示して躊躇させるとか、モールス的に使うとか、もっと制止できそうなのに……と隔靴掻痒だった。
新型原潜の方は、命令通り無線封鎖して核ミサイルを発射しようとするので、もしかして、まさかの『世界大戦争』的な、アンチ・クライマックスものか? という予感も。結局は、その中間というか、主人公の乗るほうが、沈没して、新型のほうは