思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

魔界百物語(2)


吉村達也
☆☆☆★
角川書店

『京都魔界伝説の女』のセルフリメイク。元ネタのほうは未読っぽい(調べてないけど、少なくとも記憶にはない)。
美少女超能力者と同行する、京都魔界バスツアーの最中に、死体の手が出現する、という仕込みのあるテレビ番組が企画されていた。
とある情報から、本当に死体がでてくるかも、とツアーに同行していた田丸や氷室だったが、案の定、人間の手首が出てきた。
今回は、アインシュタイン似のなんでも博士と氷室の、推理合戦の相を体する。推理小説というより、悲劇と情念のヒトコワ・サスペンスという感じ。やっぱり、純情だてた証拠集めというより、二人とも、ある程度事件が進展すると、二人が温泉に入りながら、直感で真相を看破し、最後は映像媒体のミステリーではあるあるの、囮捜査みたいにして場面を盛り上げる。
今回は、犯人の迫力に読者も気圧されること間違いないので、推理小説としてとしてどうこう以前に、ホラー小説として、楽しめるのでは?

以下ネタバレ

ミステリーとしては、発見された手首に生活反応がないのは、肘から切断されたものを、再度手首から切断したから、だという。トリックそのものは、『京都魔界伝説の女』の発表当時では知らないが、少なくとも、私がこれまでに読んだ中には見かけた。
だが、それは単なるホワイダニットの一部に過ぎない。しかも、それがアリバイトリックではなく、被害者自らの意思でなされ、しかも、ある人物を脅す(驚かす)ためのアイテムとして使うため、という動機が凄い。その人物というのが、自らの娘なのだ。ここまで、明確な理由なく、実娘を虐待するキャラクターも珍しいだろう。ま、考えたら、それも当然で、よっぽどノワールかサイコに描写し尽くさないとリアリティを得られないしね(´Д`) 本作では、力技で押し切った(押し切られた)感じだけど。
ただ、彼女が携帯もないのに、山口から京都へ来て、霊能者のマネージャーを殺害したのも強引だし、いくら油断させる関係とは言え、中年の女性が壮健なヤクザ崩れの両目を火箸で刺すのも無理があるし、それを指したまま、つまり抜こうとも思わないまま死ぬまで彷徨い歩く、というのも、ちょっと納得しがたい。作者もそのへんは自覚があるのか、こういう部分は、聞き書き風にさらっと流している。会話や聞き取りだと、ツッコミを入れないとリアリティに欠ける内容だしね。
本巻のあとがきでQAZの正体について、これまでに登場している人物だと書かれている。絶筆となった次巻にも、書かれていないと思うが、いちおうわたしの予想。京都の旅行ガイドの一柳でしょ? 漢字の一をカズと読んだだけで。本作でも、さも別人のように書いてあるのは、二重人格だから。