思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

罪と祈り

貫井徳郎
☆☆☆☆
実業之日本社

いちおう最初に定年退官した元お巡りさんの殺人が起こり、そこから彼を巡る過去を調べる。元お巡りさんの壮年時代と、息子が過去を調べる現代編が交互に語られる。
いちおう元警官の死を巡るミステリーなのだが、貫井ちゃんの作品はもう(京極夏彦ではないが)、本格小説と言って過言ではないだろう。
当然ながら、いち小説として抜群に読みやすく、文章も、巧みで、読みやすい。おまけに気の利いたどんでん返しもあるんだから、純文学から推理小説の入門としてはこれ以上のものはないだろう。
過去編の事件は、昭和と平成をまたいで起こる。本作を読んでいて連想したのは映画『226』のサントラのライナー。そこに書かれているごとく、本作は貫井ちゃんなりの「昭和へのレクイエム」ではないだろうか。
なぜ、平成と令和の間じゃないんだ? という疑問もあるが、そこは動機の問題から、こうなった。

以下、ネタバレ

本作は、現代編では元警官の息子と、幼なじみの2人の視点で交互に描かれる。過去編では、それぞれの父親の視点で交互に描かれる。幼なじみの父親が警官、と立場が逆になっている。要するに、視点人物が4人いるわけだ。貫井ちゃんの過去作からしても、てっきりねじれた時空のつながりがあるのかと疑ってかかっていたが、それはなかった。ミステリーとしては、ある意外な人物の二人一役的な誤認トリックがあるのだが、それがメイントリックとは言えないのが本作の、推理よりも小説重視である所以。
過去編も『悪党たちは千里を走る』ばりのノワール。あくまでも、何人も出てくる死者は、なぜ死なねばならなかったか、というホワイダニットもの。そうか、考えたら、ホワイダニットにはトリックがなくてもいいんだなぁ……。