思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

大いなる驀進


☆☆☆☆

タイトルの読み方は「ばくしん」。国鉄時代の、蒸気機関車による寝台列車「さくら」を舞台にした映画。
本作はお仕事映画であり、乗り物パニックであり、グランドホテル形式の群像劇であり、また時代が経ったことにより気せずして、当時の寝台列車を記録したドキュメンタリーまたは資料映像的な側面も有することになった。
冒頭、東京駅へ向かう中村錦之助に、女が何度も何度も「やめないでね」という、奇妙な出だし。中村錦之助の顔がとっちゃん坊や的なので、高校生くらいの設定なのか、サラリーマンなのか、判断に苦しむ。やがて東京駅の裏方に入っていくので、国鉄職員らしいことは分かるのだが。
そこで、白い学ランみたいなのに着替えるので、また「?」が。乗務員の格好の1人に、白い学ラン姿が10人くらい。てっきり何か違法なことがあって、査察官が来たのかと思った(^^;)
どうやら、旅客機でいうスチュワードにあたる乗務員の昔の格好らしい。こういうのが歴史的資料たる所以。後でアップになると、腕章に「給仕/BOY」と書いてあるのが読めた。
中村錦之助の恋人が、彼を追って「さくら」に乗り込んでくる。
他には、大物議員、スリ、ヤクザ風の男、自殺志願の老人、駆け落ちの男女、血清を運ぶ女、危篤の母の元に向かう女、そして中村錦之助に思いを寄せる食堂の給女、そして中村錦之助の上司である車掌の二谷英明……じゃない、三國連太郎(似てるもんで)。
実際には、たったひと便の列車でこんな色んなことは起きないが、そこは映画ってことで。
登場人物が多すぎることと、列車の運行のリアリティを重視したせいで、映画としてはいびつな構成になっているが(詳しくはネタバレ欄で)、「どうしてみんな乗り物パニック映画が好きなのか?」ってことで、楽しく見られた。
鉄道ファン的には、蒸気機関車寝台列車のどちらもが同時に堪能できる。また、関門トンネルの断面が円形だという発見も面白かった。あとは、少なくとも劇中には禁煙車が出てこなかったので、食堂もふくめて、スパスパタバコを吸ってるのを見ると、当時に生まれなくて良かったなぁと思った。

以下ネタバレ

グランドホテル形式であるが故に、乗り物パニックになることが予想できてしまうが、それはネタバレとか、マイナス要因にはならないのが、このジャンルの良いところ。
本作の「通常の運行が不可能になる」要素は、台風。サブプロットとして、老人の自殺未遂がある。ただし、「最悪の事態が予想され」というのは、ほぼない、といいい。登場人物の多くに遅れてはいけない理由が設定されて、列車が遅れることそのものがパニック要因になっているのだ。
上述のいびつな構成について。乗り物パニック映画の王道なら、台風による土砂崩れによる停車から復旧、というのがクライマックスなので、その後はすぐ映画が終わるべきところ。ところが、本作はそれから20分も続くのだ。
これは、土砂崩れの場所を山口県あたりしたので、「さくら」の終点である長崎到着まで、先が長いのだ。夜が空けて、食堂車で朝食も提供される。鉄道ファン的には、シートのほうで駅弁を食べている人も背景的に映しているところにニヤリとさせられる。このへんがドキュメンタリー的なリアリティなのだ。