思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

『ネコノメノヨウニ…』


田中啓文
☆☆☆★
集英社スーパーダッシュ文庫

『猫の眼のように・・・1』☆☆☆★
やってることは「少年A」こと酒鬼薔薇聖斗と大差ないのだが、失恋とか、少女を主人公た、純文学仕立てにすると、なんか肯定してしまうのが、小説の面白さであり、怖さでもある。

『二度目の降霊術 1927年』☆☆☆☆
ミステリー作家として、少年少女たちに、ミステリーの面白さを教えてあげよう、という感じ。いわば『降霊術殺人事件』である。設定といい、展開といい、動機といい、山田風太郎テイストの佳作。


『火盗り蛾 1945年』☆☆☆★
終戦の年が舞台ではあるが、江戸時代でも通用しそうな、伝奇もの。火の神をまつる村と、その正体から、グロ小説家でもある田中啓文のエンジン全開、というクライマックスがみどころ。後書きにあるように、無理矢理後から猫をはめ込んだ短編もある中、本作にはしっかりと存在感のある役回りだ。

『影の病 1973年』☆☆☆★
ドッペルゲンガーと、あるSF的なネタを組み合わせた、SF作家でもある田中啓文の多彩な芸風(?)が堪能できる。あくまでも主人公を慕う少女の思いが中心に描かれた、掲載誌が女性向けであることに正鵠を射た作品。

『滅びた夏 1999年』☆☆☆☆
先に読んだ『息吹』にもあったが、並行世界もの。双方の世界の交流方法は、ジュヴナイルらしく、何の理論も設定されていないが、世紀末的ヤケクソ感と、女の情念、それに対する男の情けなさがよく出たSF。

『切れた弦 2021年』☆☆☆★
ミュージシャンでもある(ほんと、多才だよなぁ・・・)田中啓文の本領発揮。演奏時に出てくる形容や音楽用語が、分かるような、何のことかさっぱり分からないような(^^;) もちろんそれだけにとどまらず、ブラックなツイストや、ホラー風味の伝奇もの的な展開、演出が用意されている。

『卵 2312年』☆☆☆★
舞台は飛んで、宇宙旅行が当たり前になった時代。怪我をしたダンサーである恋人(胎児をりゅうざんしたくらいだから、夫なのかなぁ?)のために、卵の積まれた宇宙船の唯一乗り込む監視員、という破格の仕事を引き受ける。ラストの展開は、一見、単なる姦計と犠牲者に過ぎないが、卵の中のひと、男、女、それぞれ全く別々の想いがあり、ある種の「三方良し」でもある、という凄いホラーでもある。凄いけど、あんまり☆が多くないなぁ……(^^;)なんでだろう。

『猫の眼のように・・・2 1927
年』☆☆
バラバラの短編を無理矢理まとめるためのオチ。この短編のオチにはなってるけど、連作短編集のオチとしては、やっぱり中身との関係性が薄すぎるよなあ。