思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

鬼の探偵小説

田中啓文
☆☆☆★
講談社ノベルス

実にややこしい話を書いたもので、たしかにこの作者にしか書けないミステリかも。
主人公の鬼丸はコロンボのような冴えない風貌の刑事(ただし巡査部長)。そこへ、アメリカのハリウッド署(ある種のボケ/ネタなのか何なのかよくわからない)帰りのハーフのエリート警部がやってきた。彼は実は陰陽師で、ひそかに陰陽を駆使して事件を解決しようとしているが、なんと鬼丸はその名の通り、鬼であり、物の怪が集うバー「女郎蜘蛛」に通って、物の怪が関係しそうな事件の解決のヒントをもらうのだ。作中で、蜘蛛関係の事件が発生した際の会話にアシモフの『黒後家蜘蛛の会』が出てくるが、本作はさしずめ『女郎蜘蛛の会』とでも言うべきか。
あくまでもメイントリックに関係する隠し味としてだが、作者の好きなダジャレも、各短編に用意されている。
本作の特徴は、現実的な解決と、物の怪ありの解決、その両方が用意されていること。すぐ例が出てこないのがもどかしいが、たまにある手法ではあるものの、どちらにも説得力を持たせるのはなかなかの技量が必要。
さらには、犯人の手引きをした、法に裁かれぬ悪者を閻魔大王ならぬ地獄の鬼が成敗する、という、勧善懲悪的な胸スカ展開も用意されている、実に盛りだくさんの連作短編なのだ。なんでシリーズ化されなかったのかぁ……?
やっぱり伝奇もの、というのがもうマニアックなのか?(´Д`)