思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

零號琴(上)

飛広隆
☆☆☆☆★
ハヤカワ文庫SF

前著の素晴らしさや、本作の評判は知っていたが、書店でパラパラ眺めた限りでは、ハードカバーを買うまでには至らないかな? と二の足を踏んでいたもの。図書館でも予約なしでは全然回ってこないし(^^;)
読んでみれば、これは面白い。これまでの中編は、どちらかというとギミックや特殊設定や世界観の紹介に重点を置いていた感じなのに対して、本作では、石原藤夫的に名付けるなら『楽器惑星』とでもいうべき特殊設定ものでありながら、古代の仮面歌劇/交響オペラを再現しようとする人物たちと、その背後にある思惑を、こんな設定を作った背景とセットにして開陳して行くであろう、趙豪速球の、ワイドスクリーン・バロックなのだ。
具体的に書くとネタバレになるので避ける(といってもまだ上巻しか読んでいないので、オチやどんでん返しの有無は分からないのだが)が、山田正紀の思想と、麻耶雄嵩のオタク的パロディを、田中啓文的な天真爛漫さで書いた『ハイペリオン』、という感じなのだ。都市全体が楽器である、というのに似たアイデアは、イアン・ワトスンか誰かのSFにあったかな?
ただし、独特の造語を漢字で読ませるので、すぐに読み方を忘れてしまうのには参った。「菜 糸采(後半は変換候補に出てこないので、糸編に菜、と見立てて下さい)」なんて、何回か読んでも「さいい??」としか読めない(@_@)。「なづな」と読ませるそうなのだが。