思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

ダミー・プロット

山沢晴雄
☆☆☆☆
創元推理文庫

まずは、本作が古典の復刊というか、埋もれた名作の位置付けであることの前提が重要。作中に「平成九年 注」とかいうのもあったが、書かれたのは新本格前夜の、社会派ミステリーにあらずんばミステリーにあらず、というご時世に書かれた本格ミステリ、ということ。
とは言え、一筋縄ではいかない。者じたいは、社会派らしく、舞台となる大阪の風俗なんかも混ぜつつ、犯人の検討もつかないまま進んでる行く。
そこに、初出タイトルであった名探偵も出てくるが、重要容疑者と話したり、警察に助言したりはするものの、一向に快刀乱麻を断つ推理を披露してはくれない。その前方が明らかになる謎解きは、メタ的というか、作者の視点でなされるのも、本作の特徴を表している。
本作では、ミステリーとしてはメイントリックとして真相編に出てくる、一人二役(代役)という展開を最初から物語中で提示しているのが特徴。その意味では双子の入れ替わりをテーマに掲げた『殺しの双曲線』を連想させなくもない。
ネタバレなしで書くなら、本作はあくまでもクリスティ的な黄金時代のミステリを日本の戦後に受け継ごうとした作品といえる。
土屋隆夫とか、高木彬光っぽい感じもある。