思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

駄作


ジェシー•ケラーマン著/林香織
☆☆★
早川文庫

原題は『POTBOILER』で、訳者あとがきによれば、「金目当ての通俗小説、もしくはそうした作品を書く作家のこと」だそう。
導入は、ベストセラー作家が死んだ、というところから始まる。いわゆる国際スパイ小説の作家で、主人公は彼の旧友で、作家を志したのは早く、一冊は本を出したが、あとが続かなかった。
彼の家を訪ねると、これまた元カノでもあった未亡人と、未発表原稿に出会う。
このへんまでは、よくある「作家小説」で、未発表原稿を手を加え(この手の作品では珍しく、主人公には文才がある)た上で自分の小説として出版し、念願のベストサラー作家になる。
本書の裏表紙アオリの最後に「本書には奇想天外な仕掛けがある」と書かれているのに引かれたわけだが、ミステリーでは常套句である「驚天動地」ではなく、奇想天外、というところに、当然、引っかかるわけだ。そして、『通俗小説家』とでも訳せばいいのに、わざわざ『駄作』なんて邦題をつけているところも。とうぜん、同社から訳書が出ている『二流小説家』という作品があるから、さすがに『三流小説家』とかはつけられないし(もしかしたら、本書の訳出が先?)。
ネタバレなしで結論から言えば、厨二病的なツイスト展開と、最後の前振りなしのぶっ飛び具合は、まさしく駄作と言われてもしょうがない……のだが……。

以下ネタバレ

序盤の盗作ものから、中盤では主人公じしんが、徹底して馬鹿にしていた通俗スパイ小説そのものの世界に放り込まれる。旧友のベストセラーには組織から提供された暗号が埋め込まれており、それによって、ズラビアなるどこかわからん共産国の反政府組織が暗殺を実行したりしていた、というのだ。さらには、主人公がズラビアにゆき、文字通り生死をかけた危機におちいる。
このズラビアは、東西に分かれているのだが、あっちへ行ったりこっちベスト行ったり、特に伏線なしの二転三転がある。このへんが三文小説的な部分。主人公が見下していた作品の主人公のような展開だが、これがメタ的な皮肉なのか、ハードボイルドにしようとして失敗しているのか、なんとも微妙なのだ。途中で、「主人公が書いたのはこういう小説でした」という入れ子構造になるんじゃないかとさんざん期待したが、そうはならなかった。もっとぶっ飛んだ展開が待っていたのだ(^^;)
冒頭で死んだとされた作家が生きているのはいいとして、ラストには海で溺れ死んだ主人公が、世界と一体となる、という『まどマギ』か!? というこれまた何の伏線もなければ意味も分からないオチを迎える。
見逃している伏線や隠喩、オマージュがあれば別だが、そうでないなら、やはり邦題とおり中学生が書いたような駄作なのか、良くて怪作。敢えてめちゃくちゃに書いた小説、という感じ。こういうのは短編かせめて中編でやってほしいよなぁ。500ページ近くあるんだもん。