思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

文学少女対数学少女

陸秋槎
☆☆☆☆
早川文庫

ついうっかり騙された(?)が、日本人が書いたラノベではなかった(^^;)
中国人が書いた本格数学ミステリを翻訳したものだ。
草野仁の作品は詳しい解説では触れられていないが、井上真偽とか、『数学ノート』とかはしっかりあげられている。ただ、やはり、もっともテイストが近いのは麻耶雄嵩の諸作品だろう。タイトルも彼の作品のオマージュだ。
本作の主人公も作者と同名。ちなみに、中国人の名前は男女の区別がさっぱりだが、少なくとも作中の陸氏は女子高生である。解説によると、本書では明らかな描写はないが、作者は百合小説の書き手でもあるらしい。そこは本書からでもよく分かるが。
純粋にミステリとしとみた場合でも、数学的な謎と、現実での事件の2つが歴史ミステリ的な相似構造をもって配置されているので、通常の2倍はおトクなシリーズと言える。

連続体仮説』☆☆☆☆
主人公が校内誌に書いた犯人当て小説について徹底検証する。探偵役は、性格も奇矯な天才数学少女。

フェルマー最後の事件』☆☆☆☆
フェルマーの最終定理の証明がどういうことなのか、『数学ガール』のような正攻法ではなく、フェルマーたち自身を登場人物にした実際の推理小説に例える。主人公の旅行ツアー一行にも現実にも障害事件が起きる。突然主人公を机の上に仰向けに寝かせて、胸の上に水をかける、という数学少女の奇矯に見える行動にも、しっかり理由がある。このへんにも、金田一以来の伝統があるかも(^^;)

不動点定理』☆☆☆☆
とある洋館の離れで起きた密室殺人事件を描いた推理小説を書いた女子高生。その家庭教師をしていたのが数学少女。彼女の招きで、その犯人当てを推理すると、作品には意外な動機が潜んでいた。その動機は、日常の謎にありがちなもの。

『グランディ級数』☆☆☆☆
路地裏の喫茶店で行われた犯人当て推理小説読書会。マスターが控え室で殺されていた。その片耳には、壊れたイヤホンが刺さっていた。警察に推理を披露して解放されるきっかけになったのは、ルームメイトの推理。その意図は、メルカトル鮎ばりのちょっとだけ邪悪なもの。