『ミネルヴァの報復』☆☆☆☆
若手女弁護士が主人公の法曹ミステリ。何か高木彬光の検事シリーズを読んでいるような懐かしさ(^^;)
中嶋の法曹3部作とも違う、弁護士のリアリティが非常に興味深い。それはビジネスとしてだけでなく、弁護士という生き方そのものにまで切り込んでいる。また、先の二人とは違い、女弁護士ならではの視点も特徴。
弁護士ものではあるが、ハードボイルド私立探偵もののようなテイストなのは、直情径行的な主人公の性格によるところも大きい。
物語は、離婚調停か、始まり、読者にも比較的身近な話題の法律論から、次第におかしな展シフトするところもうまい。
単なる殺人事件の捜査ではない意外な展開、意外な犯人、序盤から張られたしっかりした伏線の、三拍子揃った秀作。エンタメとしても、教養小説としても、人間を描いているという点でも、作者の他の作品より明らかにレベルが上。敢えて言えば、他の作品よりもテーマ性に深刻さが足りない、という人がいるかも……。
真犯人の動機もなかなか切ないというか、何か同情してしまう(^^;)
「裁判官にとっても和解はありがたい。和解なら判決を書かずにすむからである。」
これはトリビア的メモ。
「お世辞にもビジネスとはいいがたい。若作りながら歳は隠せず(略)どこにそれほど惹かれたものか、外見からは測りかねた。」
このへんは、女流作家ならでは。凡庸な作者なら、浮気相手は本妻より美人にするだろう。
以下、ネタバレ
実は、直前に引用したところも伏線になっているなど、周到な構成の本作。
ハードボイルドなら、主人公が解決するところ、探偵役は主人公の友人、というところは本格のそれ。まあ、本格ミステリとして読めば、友人が探偵役なのは、序盤であからさまに描かれているので分かるのだで、伏線やどんでん返しという訳でもない(ほとんどミステリーを読んだことのない人なら騙されるかも)。
また、本作には本格ミステリとしてもなかなかのどんでん返しが仕掛けられている。主人公と、(出番は短いながら)探偵役が魅力的なことと併せて、シリーズ化して、3部作のラストくらいで使ってくれたら、さらに効果的だったと思うのだが……。