思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

三体0 球状閃電


☆☆☆☆★
早川書房

最後にはとてつもないスケールに広がる「三体」3部作。その前日譚ということで、必然的にメチャクチャ地味な、メインキャラである研究者の日常を描いた小説かと思って読まずにいたが、豈図らんや、メチャクチャ面白い! さすがは作者の面目躍如、というところか。
オカルト的な「球電」という、火の玉ならぬ光の球に生涯を捧げた研究者たちのドラマ。それをクラーク、イーガン、ホーガン的なテクニカルSFとして描ききっている。
謎とされている球電との邂逅からしてショッキングだが、その研究過程じたいが面白い。ホーガンの『量子宇宙干渉機』なんかよりはるかに。
さらにそこから、その正体と、そこから導かれるフィクションの科学理論、さらにさらにそれを元にしたテクノロジーの開発。主要登場人物のひとりを軍の技術開発者にしたことで、スピーディーでもあり、作るアイテムのスケールアップにも貢献しているという、うまい設定。
訳者あとがきを参照するに、本作は「三体」シリーズの時間軸を前にした、スピンオフか、パラレルワールド的な作品といえる。
ただし、主人公の手記という体裁でもないのに、ちょくちょく「後に、関係者から聞いた話をまとめたものである」的な記述が入るのはいかがなものか。全編が、主人公の一人称視点で時系列にフェアに書かれている、というところにこだわる必要性は疑問だった。

以下ネタバレ

本作で燃える(萌える?)ところは、球電の謎を追っていくと、「マクロ原子物理学」という架空物理学が浮かび上がってくるところ。球電が、目に見えるサイズの巨大な電子であり、電子があるということは、原子核がある……と発展していくところにセンス・オブ・ワンダーを感じないSFファンはいないだろう(ハードSF嫌いなら別だが)。
ラストには、クラーク的な叙情性というか幻想性まであって、読後感も申し分ない。選択的に特定の物質を消滅させることが可能で、作中の現実的には、兵器や電子機器の基盤を消滅させることで無効化する、というのはクラークの、『トリガー』あたりと直接関係する。
ただ、「グラウンド・ゼロ」を回想の形で、主人公の被害体験描写の後で書く必要があったのかどうかは疑問。