思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

『パラドックス・メン』

『パラドックス・メン』チャールズ・L・ハーネス著/中村融
☆☆☆☆
竹書房文庫

実に充分至極な解説があるので、気になった人は、まずそこを(立ち)読みすれば、本作の特徴がよく分かる。
要する、ヴァン・ヴォークトやベスター、ベイリー、などが好きなら、問題無用で読むべし、だ。あとは強引な理屈はルディ・ラッカーとか。
作品世界の説明がほとんどなく、主人公たちの主観で進んで行く。基本はベスターのようなスパイもの。いわゆるダレ場がなく、次々にイベントが起こるのが退屈せず良い。それどころか舞台劇のように、長くない章をまたぐところで、時間がブツブツ飛ぶのだ。良く言えば、映画的なフェードアウトの手法であるが。
50年代、すなわち黄金時代SFの良いところは、科学とファンタジーの間の、丁度いいポジションだ。本作でも、ハードSFとしては、全然理屈ディテールが不足しているのだが、「充分に進化した科学は魔法と見分けがつかない」すなわちクラークやアシモフ的な、私のようなハードSF好きにはファンタジーだが、ゆるいSFファンには充分SFと見えるバランスが楽しいのだ。
終盤になると、本作における謎が明確になり、ドライブ感も増して来る。原題は意訳で『過去への旅』なので、実は時間SFであることがあきらかになるのだ。その謎じたいは、まあ、誰が誰かは、しっかりとした伏線と論理に基づくというより、作者のさじ加減ひとつやん? という感じではあるが。ただ、その構造じたいは、まさに21世紀の日本新人作家も普通に使うプロットでもあるのだ。
あと、本作がパソコンも衛星もない、半世紀も前の作品なのに色褪せて見えないのは、あくまでも現在の翻訳(つい新訳と書きたくなるが、初訳なのだ)だから、ある程度の現代に合わせた超訳があるせいもあるんじゃないか、と想像する。
昔の連載マンガで言われるように、オチがイマイチでも、途中が絢爛で楽しいからいいんじゃない?(^^;)