思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

輪廻の蛇


ロバート・A・ハインライン著/矢野徹ほか訳
☆☆☆★
ハヤカワ文庫SF

『ジョナサン・ホーグ氏の不愉快な職業』☆☆☆
ミステリーでいうところの「記憶のない依頼人」もの。自分は昼間何をしているか調査してほしい、と私立探偵ランダル夫妻に依頼してきた。調べて行くと、存在しない13階の、存在しない会社で働いている。おまけに、見えない襲撃者など、不可思議な現象が続発。
何より驚いたのは、本書は短編集なのに、読んでも読んでも終わらないこと(^^;) なんと、200ページ以上あって、普通なら一冊として出される長編である。原題が本作と同名であるのも妥当なところだろう。それにしては、短編なみにSFとしての密度が薄いので、短編集に無理矢理押し込むかたちで出版されたのかもしれない。ホーグ氏の正体も、SF的に面白い設定ではあるが、「その先(奥)」を描いてくれないと、肩透かしを食らった気分のままだ。

『象を売る男』☆
何が面白いのか、オチがどういう意味かさっぱり分からない。こういう人が実在していて、アメリカ人がなら、そういえば、と膝を打つ知られざるエピソードなのか? 完全なフィクションだとしたらなおさら面白さが分からん。

『輪廻の蛇』☆☆☆☆
これこれ! これを読む為に買ったのだ。映画『プリディスティネーション』の原作チンピラ。基本的には映画と同じだが、映画では、この原作を、質・量ともにスケールアップしていて、映画化成功例のお手本と言っていいだろう。基本的には構成は同じなので、一度読んだミステリーを再読するような感じで、伏線や記述のフェアネス性に注意したが、そのへんはさすが。ただ、原作を読んだだけだと、本質の仕掛に気づかない人もわりといたんじゃないかと、余計な心配をしてしまう。しかしこれ、連城三紀彦の某大傑作短編とある意味、同じトリックだよなあ。あちらは、空間的には移動していないが、こちらは時空を最大限に使って実現した、という点では対照的。

『かれら』☆☆☆★
ネタバレかもしれないが、本作と『ジョナサン・ホーグ』そして『歪んだ家』は、それぞれ少しずつ重なった要素が半分ずつくらいある。ネタじたいはワン・アイデアなので、ショート・ショートとかにしたほうが切れ味がより発揮できたんじゃないかなぁ。

『わが美しき町』☆☆☆★
ドラえもん』に似たような話があったが、本作をパクッたんじゃないだろうか(昔は海外のSFを広く紹介する意図も半分あって、こういうのはよくあったらしい石ノ森章太郎とか)。台風の子供をのび太が育てる、という話だ。本作では、50年前の新聞を大事に取っている、なんてあたりが面白い。

『歪んだ家』☆☆☆★
アシモフか、最近ならイーガンあたりが書きそうな幾何学SF。四次元立法体を家にすることができたらどうなるか、という思考実験的な作品。どういう理屈で可能なのか、という理由が一切ないとか、後半の展開には幾何学的に納得いかないのが難点。中盤までは映画『CUBE』か『インターステラー』のあの部屋みたいでちょっと面白かったのに。