思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

ホドロフスキーのDUNE

☆☆☆☆

『DUNE』と言えば、デビット•リンチのぶっ飛び映画が有名。原作も読んだが、イマイチどこが面白いのか、というより、どこが海外でウケてるのか、さっぱり分からない。
そんな分裂症的な作品について、とんでもないスタッフたちが撮影直前まで企画を固めていた、と聞けば、興味の湧かない映画ファン、SFファンはいないであろう。
観てみれば、ドキュメンタリーとして、巻置くあたわざるというか、途中でやめられないで一気観してしまった。
宇多丸師匠の評で改めて気づかされたが、ホドロフスキーの語り口やキャラクターじたいが魅力的なのだ。このへんは、樋口真嗣の陽気さと、押井守のロジックと芸術的感性、富野由悠季の頑固さを併せ持つような感じ?
絵コンテや、デザイン画じたいの、内容じたいはそこまで凄いとは思わなかったが、スタッフ、キャストはとんでもない。ピンク•フロイドのような、当時の世界的ロックバンドに音楽(劇伴もなのか、主題歌のみなのか不明)を頼んだり、皇帝役に、あの幻想画家ダリを、当時の画面登場時間あたり史上最高額のギャラでオファーしたり。スタッフも、後に『エイリアン』を作るギーガーとダン•オバノン、フランスの天才漫画家メビウス。名前は忘れたが、素晴らしいSFイラストを描く人など(『ロード•オブ•ザ・リング』なら、アラン•リーに当たる)、超一流。主要デザインや、ほぼ全ての絵コンテまで感性しながら、ハリウッドの大手映画会社がオーケーしなかったから、そのまま開発中止。日本の我々としては、まるで『ガルム•ウォーズ』になる前の当初の企画である『GRM』を連想せざるを得ない。あとは、『ガンダムUC』が実はアニメ化を前提に始動したとするなら、それに対する『ガンダム•センチネル』とかね。
本作の広辞苑のような分厚さの、企画書は、ハリウッドの裏ルートであちこちに広まったらしく、さまざまなSF映画に間接的のみならず、モロに影響を与えている……いや、パクられていると言っていい。まだ『エイリアン』は、すたが同じなので、『センチネル』に対する『0083』みたいな関係と言えなくもないが、『スターウォーズ』『ナウシカ』『ジュピター』などなど……。最大の屈辱は、企画だけ盗まれて、監督はデビット•リンチにすげ替えて作られた『DUNE』だけど。それが失敗作であったので、ざまみろ的な気持ちになった、というホドロフスキーの反応も、よく分かる。でもまあ、12時間とか20時間じゃないと作らない、って、ネットフリックスとかがある現代ならともかく、80年代ではそもそも実現不可能で、そんな条件を提示した時点で「おまえはもう死んでいる」でしょ。そもそも低予算のロードムービーですら20時間映画なんてほぼ無理でしょ。特撮ものでは『クレオパオラ』は60年代? 『イントレランス』は第二次大戦前だし。
ホドロフスキーじしんも、しょうがないかは、本作のアイデア、設定を、自信が原作を担当したマンガで再利用しているとか。そのうちのひとつ、『メタ•バロンの一族』は、絵も綺麗なので、是非読みたいんだけど、現在絶版なんだよなぁ……。ちなみに、そちらは外伝で、本伝のほうの『オンクル』だかは絵が好きになれない。
本作を見るにつけ、この企画をと経緯を知っていて反面教師にしたのかどうかはわからないが、『ロード•オブ•ザ・リング』が映画化できたことは、つくづく奇跡的だと思わずにおれない。アラン•リーという超一流のアーティスト、本物志向の武器と防具、ホビットと人間の2サイズという、通常の2倍必要なセット、そして何よりエクステンデッド版で考えると、三部作で12時間という尺。まさにホドロフスキーがやりたかったことを実現したのだ。