思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

太秦ライムライト

☆☆☆☆

時代劇好きなら「知らなきゃモグリ」と言える、「日本一の斬られ役」福本清三氏を主役にした(後にも先にもこれしかない)映画。
文字通りの日陰者、裏方に光を当てる、という意味でも、記念碑というか、日本映画界の歴史遺産である。
どうせならドキュメンタリーのほうが良かったと強く思うのだが、フィクションならではの情感というのも、まあ、悪くはない。
ただし、細部の演出は良いのだが、純粋にフィクションとして、ちょっとご都合主義的展開が気になる。
特に、クライマックスで、若手の今時プロデューサーが福本清三に肩入れする脚本的説得力が皆無なのは非常に気になった。あとは、物語上の転機である、ヒロインが引退した福本清三を呼び戻しにゆくシーン。幼少期の無邪気なチャンバラごっこを解雇するのは良いが、そこに至るまでのフリがほとんどない。『SPIRIT』ほど尺を取れないのは当然だが、最重要ポイントであるだけに、もうちょっと頑張って欲しかった。もしかして、この部分に、プロデューサーにまつわるカットバックとかが数分ぶんあったのをカットしたのかな??
『スローな武士にしてくれ』で大御所・里見浩太朗が出演したように、本作では松方弘樹とのチャンバラが最初と最後(クライマックス)に用意されている。松方弘樹が攻め/動なら、福本清三のほうは受け/静の殺陣。松方弘樹の殺陣は前へ踏み込むよりも、手前に次々と相手を切り込ませて、懐で切り返す、みたいな感じ。
本作では、撮影の裏側を見せているようで、最初と最後は、複数のカットをつないで、効果音まで付けた「ファイナル・カット」へとチェンジしている、というトリックがある。ライティングも違うので、分かる人が見れば一目瞭然なのだが。
ラストカットは、切られた福本清三の身体に桜の花びらが舞い落ちる、類例のない文字通り、潔くも美しく幕切れ。脇役ですらない、万年端役が、主役になった瞬間である。