思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

偶然の殺意


中町信
☆☆☆★
徳間文庫

初出時の題名は『浅草殺人案内』。作者のミステリは改題して出版されることが多いので書いておかないと。
主人公は浅草下町の鮨屋で、たまに来る常連客以外、あまり繁盛していないことをいいことに、いつも二日酔い、という中年独り身。店は七十代の母親と切り盛りしていて、じつは正しい道筋へのヒントは、期せずして彼女が出す。作中で何度もミス・マープルが引き合いに出されるのが、なにか「信濃コロンボ」みたいであざといなぁと感じた。
要するに遺産問題にかんする一族の連続殺人ものなのだが、金持ちだったのが疎遠だった祖父なので、登場人物が、現在は庶民的な下町の人々、というのが特徴。
中町ミステリではおなじみの、冒頭のモノローグがあるが、オビにあるアオリは、中町ミステリ初心者向け。いくつも読んだファンにとっては、それらのなかでは特筆すべき仕掛けとは言えない。単に犯人と一人称の人物の名前を書き落としているだけ、というシンプルなものだ。
犯人当てとして取り組めばまた良くできた本格なのかもしれないが、私のようなどんでん返し至上主義からすると、誰が犯人でも良さそうな登場人物たちなので、特に驚けなかった。

以下、ネタバレ

中盤で大きな焦点となるダイイング・メッセージは、現実的にはますありえないからか、作中で完全にスルーされている人物が犯人だろうと思っていたのに、割と現実的な犯人と動機だったなぁ、という印象。