思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

『アルテミス(上)』アンディ・ウィアー著/小野田和子訳
☆☆☆★

どことなく『火星縦断』を思わせる、月面都市を舞台にしたハードSF。
前作と異なり、仕事に悩む若い女性が主人公。
そんな彼女の日常を描くことで、月面都市のディテールを詳細に描く話か……と思いきや、本書の中盤以降は企業テロに殺人事件と、一気にハードボイルドに。序盤や破壊活動の具体的すぎる描写はすっとばしてスピーディーにしたほうが良かったんじゃないかなぁ……。欲張って、あるいは長さを求めて二兎を追ったことで、どちらかが好きな人にはそんな不満が残る感じになっている。
また、各章末に、主人公が幼少期から地球人のメル友と交わしたメールが断章的に入っている。単に映画的に、見せ場を前に持ってくる(主人公の生い立ちも描く)ためのものかと思いきや、早くも本書の巻末から本筋に絡んで登場する(主人公と電話する!)。
ストーリー的には真相への興味は薄いが、更なる月面都市のディテールとプロットが絡むのかどうかは気になる。まあ、政治的には『月は無慈悲な夜の女王』でけっこう突っ込んで描かれているので、ハード(設備)面で、ということだが……。