思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

『シェイファー・ハウンド(3)』
☆☆☆☆

米軍グレイ・オックス隊との決戦。廃村へ呼び込んでの市街戦である。
まず、目を引くのが、米軍隊の市街戦の作戦計画を説明する場面で、デフォルメされたキャラで図示していること。これによって、位置関係が分かりづらい(だからこそ、攻守ともに恐ろしいのだが)市街戦を、読者にとって分かりやすくしている。これは本シリーズ最大の分岐点かもしれない。まるで『封神演義』で主人公がデフォルメされて(´з`)になることが発明されたのに似ている。
戦闘シーンも、偵察から敵の裏をかく戦術まで、実にスリリング。地雷を物ともしない防御力、ティガーと他の戦車との体格差がよくわかる踏み潰しなども素晴らしい。
ただ最後に延々とサシのチャンバラが続くのは辟易したなあ…。『ブラック・ラグーン』か?ってえの。
絶対上、当たり前だが美少女キャラが次々無情に死んで行くのも良い。
キャラの絵についても、このあたりになると、ぎこちなさがだいぶ減って、割とすんなり見られる。メカについては言うまでもない。『どくそせん』の絵の後だから余計に良く見えるのかもしれないが(^_^;)


『オービタル・クラウド
☆☆☆☆

「エンジンとモーターって言うけれど、違いは燃料なの。モーターは固体燃料を使うもの。エンジンは液体燃料。固体燃料は花火みたいなもので、途中で噴射を止められないんだけど、扱いが楽だし出力が大きくできるから地上からの打ち上げによく使うのよね。」

こういうのをテクノスリラーというのか。近未来の世界中を舞台に、最新の科学技術を駆使した謀略が描かれる。
楡周平原案で谷甲州作だとこんな作品に仕上がるかもしれない。
軌道上で引き起こされるテロ事件の拡大をどう食い止めるか。その手段を突き止めるところからが謎になっており、その正体を少しずつ明らかにしていくところからがミステリーとしての読みどころとなっている。

ここからネタバレ。
オービタル・クラウドというのは軌道上の数万というスペース・テザーのこと。これは現在でもジャクサの基本実験がなされてはいる技術。『SFが読みたい!2015』の作者による解説によると、運用面ではフィクションが加えられてはいるが、原理としては十分ハードSFしている。
構造としては、二台のスマートフォンを2キロのヒモでつないだもの、と考えればいい。SFファンから、水平回転するロータベータた言えば分かるだろうか。ヒモのほうが、強度さえ十分なら、軽くできるので電子銃による移動が容易になるというメリットがある。ただし、ヒモだと絡まるので、ヒモ上をランダムに移動する重りがそれを防止している(というのだが、そのための動力や摩擦などの問題がよく分からない)。
また、北朝鮮がその犯人なのだが、核兵器搭載ミサイルに比べれば安価なのかもしれないが、数万ものスペース・テザーを軌道に投入するのはけっこうなコストでは?ま、スマートフォン(電子銃内蔵)ひとつ五万円として、四万×2で十億円?それにヒモと重り、数回に分けての打ち上げ費用か…。
こういう比較的小さくてシンプルかつ大量な兵器ほど厄介なものはない。アクション映画でスズメバチの巣を壊すようなもので、対処しづらい。
また、本作のテーマのひとつもでもあるスペースデブリの問題から、核兵器などでの破壊もできない、というのが面白い。最終解決の前に、マイクロ波を当てれば熱で焼き切れる、ということが発見されるが、そのオプションが使えないのだ。
最終解決が、その操作方法と、遠心力を利用することの双方ともにごく基本的な物理法則によるものなのも、良作ハードSFの見本とも言える決着だ