思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

『太陽系観光旅行読本』オリヴィア・コスキー&ジェイナ・グルセヴィッチ著/露久保由美子訳
☆☆☆☆★
原書房

洒落っ気たっぷりの太陽系惑星の解説書。だが、ある意味では『もしも月がなかったら』と同じく、または『宇宙島へ行く少年』と同じく、ハードSFでもある。それは、本書が「未来の」宇宙旅行ガイドブックという体裁をとっているから。未来ならできているであろう観光施設などが紹介されているが、これはハードSFにおいて主人公たちが体験するであろうイベントに他ならない。本書があれば、SF小説のひとつやふたつ、書けるだけの素材は十二分だ。
科学ノンフィクションとしても、改めて知らないことが結構あると思い知らされた。中学生以上なら、どこからがフィクションかは、ほぼ推測できるだろう。

「微小重力は(略)視神経が腫れ、眼底を圧迫して視界がぼやける。」

「地球の公転速度より時速64万キロ速い(略)水星とペースを合わせるには、太陽系を脱出する以上に燃料が必要」

「1961年、ソヴィエト連邦は金星に調査探査機を送り込みはじめました。(略)そしてヴィネラ9号と10号が、ついに金星の表面を撮影した」
アメリカよりソ連が早かったのか……。

「イオは(略)木星と、姉妹衛星エウロパおよびガニメデに対するイオの運動によって生じる強い潮汐力で(略)地表面が100メートル近く昇降することもめずらしくありません。」

「高度によって異なる速度の風が吹いており、こうしたさまざまな風が巨大な風の波を生んでいます。そして土星の北極のまわりにある6つの波が頂点に達して折り返し、六角形を形づくっているのがヘキサゴンなのです。」
これこそ、事実は小説より奇なり。衛星軌道上からガス惑星の表面に六角形の模様が見えるなんて、SF映画で出てきたら、絶対に「ありえへん!」としか思えないだろう。