思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

祇園の姉妹

☆☆☆★

昭和12年の、溝口健二監督作品。素朴なポスターから、いわゆる日常系のような話を予想していたが、ちょっと予想外のオチだった。ファーストカットが、『小原庄助さん』にあったような、室内をドリーで横断するような大胆なカメラワークで、まず驚かされた。
さらに、登場人物の会話が、今では上方落語ですら聴けない、大阪弁で、心地よかった。祇園が舞台だが、いわゆる吉原みたいな芸者言葉でも、京都弁でもなく、大阪の商人言葉に聞こえた(いや、そんなに詳しくないんだけど)。ちゃんと商人の店に入ったら、店主は「おいでやす」と言うしね。「てんご」は、だいたい覚えていたが、念の為意味を確認した(^^;)
そうそう、物語は、売れない芸者の姉妹が、男たちに翻弄される、と言う話。現代なら、キャバ嬢に置き換えても通用しそうな物語である。

以下ネタバレ

売れない芸者だから、旦那さんを見つけないと、いつまでも鳴かず飛ばず。序盤に、見せを潰した商家の旦那が転がり込んでくるのだが、姉妹はお互いに、相手に良い旦那を見つけようとする。とある反物屋の番頭は、使い込みがばれて、その旦那がミイラになるのだが、最後にはそのカミさんにバレておじゃんになり、妹は交通事故に遭い、世の中の不公平・不条理を嘆いて終わる。こんなシビアな話しだとは想像もしなかったわ(^^;)

ダンサー・イン・ザ・ダーク

☆★

割と評判がいいので、改めて観てみようと思った。なんか、観たような気がしていたのだが、実際に観てみると、『海の上のピアニスト』と混同していたのかもしれない。
まず、ストーリーも、演出も、完全なフィクションなのに、全編手持ちカメラであることが許せないので、割と早い段階で早送り視聴にした。
プロットだけ見れば『自転車泥棒』みたいな、人生の不条理を描いただけの映画。おまけにミュージカル。
これが、ミュージカルではなく、固定カメラ主体で、スピルバーグ調に作ってくれれば、けっこう良い映画だと思ったのになぁ。

以下ネタバレ

ラストの、死刑に至る道のりで、突然歌い出すのは百歩譲っても、檻を開けて囚人たちと触れ合うのは、いくらイメージシーンだとしても(このシーンは、現実に歌っている、という音響演出らしいのだが、それならなおさら)個人的には許せなかったなぁ。
ラストカットが、絞首刑で、主人公の死体がぶら下がったところでエンドロール、という思い切った編集なのは良かったかな。

人間の意味


アルフレッド・アドラー著/坂東智子訳
☆☆☆
興揚社

いわゆるアドラー心理学の本です解説されている内容が、洋書らしく、より直接的、具体例として多めに(くどく)書かれている、という感じ。
他者による解説本ではなく、著者じしんによるものだから当然、といえば当然なのだが。
詳しい部分と言えば、いわゆる「夢判断」、つまり夢の意味について、数多くのケースが載っていることくらい。これとて、基礎となるルールさえ教わっていれば、なんとなく類推できるものが多い。基本的には、劣等感と優越感の組み合わせなので。実際のカウンセラーが、勉強や研究のために読むには良いのかもしれないが。

ガンダムSEED フリーダム

☆☆

そもそもが『ガンダムSEED』のテレビシリーズは、放送当時も、去年再放送した時も、数話でリタイヤした私なので、観る気は全くなかったのだが、映画館の無料鑑賞券の期限が迫っていたりして、観ることにした。
YouTubeにも公開されている冒頭。タイトルが出たあとも、真っ暗な市街地戦で、3DのMSが『08小隊』ばりにハードに戦っている。ここでも、格好良さげなTMさんの歌がずっと流れている。これ、YouTube用に付け加えたんだと思っていたのだが、本編も同じだった。全然シリアスな戦闘秒針と、ヒロイックな歌が合ってないんだけど(´Д`) 『パトレイバー 劇場版』のあまりにも有名な冒頭の「ヘヴィ・アーマー」みたいな劇伴を流せば、数倍格好良くなったのに。
キャラは、元から好きじゃなかったが、本作で劇場版クオリティになって気になったのが、女性キャラのくちびるの表現だ。口紅のCMか?! というくらい、プリンプリンなのだ。顔の輪郭も、男女問わず四角いのも気になった。キャラの描き分けというか、区別がつかないので、まるで車田マンガを読んでいるかのようだった。主人公たる、20年経っても、わたしにはシン、アスラン、キラの区別すらまともにできないし。
でも、脇役のおじさん達は割といい味だしてるんだけどなぁ。美形キャラで良かったのは、ミレニアムの早口すぎるメカニックの人くらい(でも、「完璧にサポートします」と言わせるのはやり過ぎ)。
これまでのガンダム映画史上では、最低が『00』だったが、それを抜いて、ワースト確定。
絶賛ばかりの感想動画とかをいくつか見てみると、どうやら、テレビシリーズのファンであっても、ツッコミながら観るものであるらしい。であるならば、テレビ版も未見で、真面目に観たわたしが楽しめるわきゃなかったのだ(^^;)

以下ネタバレ

同棲(結婚?)までしてるのに、ラクスとの関係をうじうじ悩んで、殴り合いを始める中盤では、真剣に途中退席を考えたほど。おまえは『エヴァンゲリオン』の碇シンジか!?
ネェル・アーガマ的な存在の戦艦ミレニアムのチート的な強さを始め、強化パーツをつけたフリーダムなんて、ゲッターロボガンバスターなみのチート。フォルムはF91プラスダブルエックスだけど。
脇役ロボも、子供が考えたようなギャンもどきとか、リアルタイプ・ガラットかオモロイドみたいなブラックナイツのMSとか、真面目に観る気がなくなる。
真面目なガンダム的に良かったのは、常に逆光でゴーグルが光るという、完璧に敵役として演出されているジムっぽいやつ(ダガーって言うんだっけ?)や、しっかりWR形態でのボディの平面が出ていたエアマスターみたいなやつくらい。
ラクス周りの、やけにエロい描写にもドン引き。終盤には、相手が自粛したので未遂だったけど、あのまま強姦されれば良かったのに、と思ったほど(寝取られアリの『シード』の、その劇場版なんだから、それくらい許されるでしょ?)。その後も、作品間違えたんじゃないの? というくらいピッチリしたパイロットスーツを着て、サポートメカで、リーダーのクセに前線に出て行くし(まあ、これはシャアからのお約束だけど)、そこではパイロットスーツなのに胸は揺れるは、ケツは突き出すわ(´Д`) さらに、フリーダムに合体直後には、ジャイアントロボの草間大作か?! という感じで、何故かガンダムの顔の横に浮かんでるし(@_@)
エンディングは、テレビシリーズでも、割と好きだった、シーソーが、これまた今回も好印象の曲。詩もの嫌いの私にとっては珍しい。
またエンドクレジットでは、オールドアニメファンには懐かしい名前を発見。羽原信義麻宮騎亜(アニメなんだから、菊地道隆名義じゃないの??)だ。

イワタ・レイジング

☆☆☆☆

約20分の短編SF映画
謎の存在「イワタ」は、神でもあり、ミームでもある。「イワタ」によって発生した爆発事故を調査していた組織の二人は、爆心地にいた4人目の女の行方を追う。
いかにもSF短編小説(映画の間違いではない)らしい、仄めかしに終始して、結論を出さない構成が、短編映画にマッチしている。
字幕を多用したり、モキュメンタリー風のインタビューの挿入、スタイリッシュな、望遠レンズを多用したショットなど、かなり庵野秀明的。短編という点では、『ガメラ1999』(庵野秀明による『ガメラ3』のメイキング)や、『巨神兵東京に現る』に近い。
「イワタ」が、学生服にペプシマンみたいな顔というチープさは、いかにも低予算映画らしくて微笑ましいが、凹凸のある浮かぶ球体をうまく使うところなどは、SFセンスのある証拠。
キャストも、ほぼ自主映画にしては、ヘタウマというのか、味のある演技・演出になっていた。
なお、タイトルは宇宙人の日本での名前「岩田玲司」と、英語の「イワタ RAGING」のダブルミーニングになっている。

ミッドナイト・マーダーライブ


☆☆☆★

YouTubeの『シネマンション』で「未体験ゾーンの映画」紹介で知ってから、気になっていた一作。
深夜ラジオにかかってきたお悩み相談電話に、DJの家族を人質に取った、という電話が。
生放送のラジオに犯行声明がかかってくる、というのは、『太陽を盗んだ男』を始め、よくある設定。
メル・ギブソンが、傲岸不遜なキャラを演じていて、どうも共感できないが、やはりメルギブ(演技)力のなせるわざなのか、いわば誘拐ものの一種なので、サスペンスだけで引っ張られて、珍しく一気見してしまった。
そもそもがラジオで、犯人の姿も映画には映さず、声だけなので、「これ、ラジオドラマでいいんじゃないの?」と思いながら観ていた。『ラジヲの時間』なんかよりも、よっぽどラジオドラマ的な内容だ。
もちろん、終盤に行くに連れて、ビジュアル的な見せ場も増えて来るのだが。
何も知らずに、テレビで始まるのを観たら、楽しめそうな作品。

以下ネタバレ

なぜなら、本作は多重どんでん返し系映画であるからだ。
新人AD(ミキサー?)に仕掛けた、犯人役まで込みのどっきり企画というのが一発目。彼が階段から転げ落ちて死ぬ、というのが二発目。それで、どっきり大成功だとはしゃいでいたメルギブがどん底になっていたところ、ADが死んだフリをするところまでが、メルギブを騙すための逆どっきりだったことが明かされるのが最後のどんでん返し。これは面白い仕掛け。観ながら、警察への協力をしない(通報はするが)こととか、不条理だと思っていたが、最後まで観れば解消する。
ネタバレになってしまうが、ハリウッド版の『スペシャル・アクターズ』やなあ、というのが見終えた直後の感想だ。

ファタンスティタ・プラネット


☆

すぐわかるおの解説が参考になった。小説版の『猿の惑星』(フランスの作家だったこともそこで初めて知った)の前後に書かれた小説をベースにした、アニメというか、「動く絵本」という感じ。
巨大な青くて目だけが赤い巨人が暮らす、生態系も地球とは異なる「野獣の星」(原題がこれらしい)に、人間が暮らす、異世界の話。
青い巨人からは、人間は害獣ていどにしか見られていないが、主人公は、子供の巨人の気まぐれで、赤ちゃんの頃からペットとして育てられた。たまたま巨人の教育装置で知識を得て、大きくなって、その機械ごと逃走し、人類のコミューンと合流する、というのはいかにもSF小説的展開。
絵本として読むにはウィットが効いていいかもしれないが、映画館で観るのはしんどいかも。
絵柄も、ヨーロッパの線画イラストっぽい、日本で言えば劇画調で、魅力には乏しいし。

以下ネタバレ

巨人の瞑想が、隣の惑星にある本体の身体へ帰るためのものであり、それを壊したら巨人に勝利できたらというのも、短編SFっぽいところ。星野之宣とかが描いていてもおかしくない話だ。