思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

青春墓場


☆☆★

日本映画チャンネルの「月イチ衝撃作」。最初は、不良に絡まれる坊主かつ前歯のない男の、ケンカ生活を描くノワールかと思いきや、彼のバイト先のパートのおばちゃんの子供がいじめられている、という話を聞いて、高校生の息子の、半歩踏み外した人生が描かれ、さらにそのアパートの隣に住む売れない漫画家と劇団員のドラマが被さってくる。
本作は、3つのドラマが、時空を超えてオーバーラップする構成になっている。ただし、そうする必要があったのかは疑問。3つの映画を、短編にしろ長編にしろ、作ることができないから、この機会に一つにまとめた、という気がしないでもない。
どれも、ノワールというか不条理というか、真っ当な社会人としてはちょっとずれた生き方。
3つの中では、漫画家と舞台女優の話が、濱口竜介っぽくもあり、まだ面白かったかな。ただし、舞台で演技中の、相手俳優への彼女のセリフを本気にとって、乱入するのは、いくらかんでもバカすぎる。万年アシスタントであることも含め、ちょっと発達障害的なところがある、ということなのかも。それにしては、元カノと浮気してる(モテる)のが納得できんけど。

以下ネタバレ

第二幕のラスト、高校生が隣に住む舞台女優を刺し殺すという、衝撃の幕切れ。口から血を吐いたり、真上から血まみれの死体を映すなど、気合の入ったシークエンスで、本作の白眉。
だが、その理由は第三幕を見てもさっぱり分からないんだよなぁ。三幕には一幕のハゲの男も出てこないし。三幕それぞれがミステリー的に絡み合った構成というより、リレー的にバトンが渡されているだけなのか。また、少年が隣人を刺した理由も、注意深く見ていれば、画面の端とかに手がかりがあるのかも。再見する気は起きないけど。

踊る骸


☆☆★

スウェーデンのミステリーが原作ということで、渋いというか、地味すぎるためか、『エリカとなんとかの事件簿』という邦題の、副題になっている。
東欧というか北欧らしく、第二次大戦のナチスの影というか、残滓を描いた作品。
『湿地』ほどてはないが、陰鬱なルックで、劇伴もピアノを印象的に使って、佳作といっていい。ただし、ミステリとしてのテーマやトリックがありきたりすぎるので、中盤あたりで、真相なんて完全にどうでもよくなってしまっあ。

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本作のテーマは、要するに、写真に映った二人のうち、ナチスのスパイはどっちだ? というもの。回想シーンをぶつ切り、段階的に入れて、一気に見せない。
こういうのは、観客をミスディレクションで、別の真相を脳内に構築させていてひっくり返すから効果があるのであって、ただの二者択一で、手がかりそのものを焦らして見せないのでは、そんなのどっちでもいいやん? となってしまう。

テルマ&ルイーズ


☆☆☆

どれか忘れたが、この前観た映画にタイトルが出てきたのをきっかけに。『ブルース・ブラザーズ』の女版というか、コンビ映画といえば、という定番の作品というイメージだ。
若い女友達の話しかと思っていたので、子供はいないっぽいが、既婚者と、ウェイトレスのバイトとい、おねえさんというか、おばちゃんというかの、日頃の憂さ晴らし旅行の話。
地味な上に2時間以上あるので、最後まで観る必要ないかもと思ったが、ケーブルテレビの解説文で、ラストが凄いとあったので、8割くらいは早送りで観た。
確かに、ラストは、少なくとも映画ファンなら、一見の価値ある。

以下ネタバレ

憂さ晴らし旅行のはずが、ナンパ男に絡まれて、レイプされかかったところを、相棒が撃ち殺してしまったところから、旅行は逃避行へと一変する。
当然追って来る警察や、その協力で、夫なんかも加わってくる。
彼女たちは、あくまでも自由が欲しいので、追われるようになつてからは、メキシコに逃亡を図る。
終盤には、撃ち殺した相棒のほうと、過去にテキサスだかアリゾナだかでレイプされた過去が明かされたりと、ドラマチックではある。
早送りの効能(いや、そういうのは二度目にして、初見は普通に観ろよ、と言われるだろうが)として、旅行なのに、なんで道中はずっと画面の左に向かっているのかと訝しんでいたのだが、ラストカットで、自由への飛翔(崖下へのダイブ)が右向きであることへの「タメ(伏線)」だったことが分かって、なるほどと思った。
どちらも、いわゆるアメリカン・ニューシネマなのかもしれないが、『イージー・ライダー』と近いなあと思った。

土を喰らう十二か月


☆☆☆★

観たことはなかったが、仄聞するだけでも内容が想像できるというのは、ある意味、良い映画(宣伝)といえるだろう。
長野の山村で隠棲する作家の食生活を描いたスロー・ライフ映画。
っていうか、てっきりドキュメンタリーだと思ったのに、ドラマ作品だった。
とは言え、原作者の水上勉を直接に連想させる「ツトム」が主人公で、過去の経歴も、原作となった随筆に書かれていることそのままっぽい。未読だから知らんけど。
『典座教訓』を基礎にした、自然と畑のものだけをいただく食生活は、土井善晴の全面監修で制作・撮影されただけあって、日本食文化の真髄を感じることができる。どれも美味しそうだ。ただ、都会で生まれて、スーパーやコンビニのおかずだけで育った人にはそう感じない可能性もあるけど。海外の映画祭に出したら、各賞を総ナメしてもおかしくなかったんじゃないかなぁ??
撮影がもうちょっとクリアなら良かったのに、残念である。直近に観た『MEN』くらい鮮やかに日本の自然を捉えられていたならなぁ……。
松たか子との恋らしきドラマも、悪いとは言わないが、先述のように、なくても充分に映画として成立するのに。義理の母の手料理や、その死に際しての葬儀の振る舞い(精進料理)を自然に出したかったのかも知れないが。
確かに、これらを、自然に出すには、ドキュメンタリーとしての撮影期間が長くなりすぎるのかも。それでも、1シークエンスの撮影は1日くらいだと思うが、季節ごとに撮る必要があるので、トータル1年に渡っているのだから、スターを使わないぶん、安くもついたと思うのだが……。そうなると、さすがに地味すぎて集客に不安が残るか。

余談だが、あるYouTubeに監督がプロモーションでゲスト出演していて、製作の経緯はわかったのだが、監督まで原作者を「みずかみ」と誤読していたのはいかがなものか(´Д`)

共謀家族


☆☆☆★

事前情報ゼロだと、どこの誰が作ったのか、混乱する作品。
舞台はタイで、モブキャラはタイ人なのに、主人公一家は韓国人、警察局長(なんで署長じゃないの? 吹替版で見たんだけど)は中国人。脇役で見た顔のおじさんがいたが、香港映画に出てた人だっけ? 墓の碑銘も漢字だった。
結論からすると、タイを舞台にした、韓国映画のルックに寄せた香港映画かな??
「映画を千本観た男が、その経験を元に犯罪を行う」と聞けば、映画ファンなら観たいと思わない人はいないだろう。ただし、この惹句にはウソがある(´Д`)
娘が性被害の果てに逆襲して加害者を殺してしまい、それを庇って家族ぐるみで偽装工作を行う。ある種のクライム・サスペンスである。
その際に、犯罪映画のプロットを思い出して、それを真似るのだが、言うほど参考にはしていない。アリバイ工作くらい。事態の展開ごとに、「こういう場面は〇〇という映画にあって、登場人物はこう切り抜けていた」とか言ってくれればいいのに、そういうのは全然ない。
もちろん、惹句がアオリすぎ、という問題はあるが、それを抜きにしても、映画ファンという設定はなくても良かったんじゃないかなぁ。主人公がたまたま最近、映画館で観た映画がクライム・サスペンスで、それを思い出して工作した、でいいんじゃないかなぁ。警察も、たまたま一人の刑事がそれを知る、みたいな。
主人公の娘を脅迫していたのが女警察署長の息子で、署長の夫が市長候補という、明らかに反権力なので、主人公たちが捕まらないように応援したくなる構造になっている。
結果的には、中国資本で作られた映画としては、ギリギリのバランスで着地させたと思う。頭の悪い権力者なら、体制批判だと気づかないかも、という。
キャストは、地味なほうの韓国映画のようで、メインには美男美女はいないが、脇役が良い味を出している。先の七三分けのおじさんや、お店のランニングシャツの金髪のにいちゃんなど。
ルックは、カンニングのマレーシア映画みたいだが、序盤の、ムエタイの試合と、娘がレイプ犯を殺すシーンを交互に見せる(カットバック)する編集は、笑ってしまった。百歩譲って、父親がキックボクサーとかなら分かるけど、単なる試合観戦だからねぇ。いくら後でアリバイ作りで再利用されるとはいえ、そのシーンを観る限りでは、バカバカしすぎる。

以下ネタバレ

一旦主人公が逮捕され、証拠不十分で釈放、警察がアリバイ工作を見破り、再逮捕。決定的証拠たる死体を見つけたと思ったら、違っていたと、権力者に一泡吹かせておいて、最後は過剰防衛かつ殺人の意図はなかったとは言え、人が死んでいるので、直接の犯人ではなく、「良い父親ではなかった」主人公が、親らしく、娘を庇って服役する。妥当な落とし所と言えるだろう。

茶室殺人伝説

今野敏
☆☆☆★
講談社文庫

茶道を扱ったミステリーとしては、『千利休殺人事件』だかのタイトルのミステリーがあったが、本作は基本的に現代が舞台。
主人公は、表千家裏千家らに継ぐ架空の相山流なる茶道家に習うOL。下っ端である。とある茶会で、家元のいる茶室で、客人が包丁を刺して息絶えた。茶室で何が起こったのか? 殺人だとしたら犯人とその動機は?
一見、内田康夫的な軽いミステリーかと思いきや、茶道の歴史の祖たる千利休の歴史などに絡んでくる、歴史ミステリー。
千利休殺人事件』なんかと比べて、最大の問題点は、本作の流派が架空のものであること。その開祖(?)も、利休との因縁は、ありそうなレベルで設定されてはいるものの、どこまで行っても史実ではないわけで、歴史の謎に独自の解釈を挿れる歴史ミステリーではない。
まあ、出版社を含めて誰もが「歴史ミステリー」とは書いていないので、勝手に判断という、期待した私が悪いのだが……。
「茶道ミステリー」としてみれば、ボリュームもあるし、少しずつ人間関係の因縁が、現在の平面と、過去への、二次元的に広がってゆく構成は、読み応えがある。

野生の証明


☆☆☆

冒頭、日本の自衛隊にも特殊部隊があり、アメリカで米軍と共同訓練(演習じゃくてね)をしている、なんていうエピソードから始まる。80年代は、これだけでも、知らない人が多かったんじゃないだろうか。そして、一週間の山の中のサバイバル訓練で、「野生の本能を目覚めさなければ生き延びられない」と言う趣旨のナレーションから、タイトルが出る。
でも、そういう映画かと思いきやわ山村の百姓を惨殺する場面があり、田舎町でひっそりと暮らす高倉健、という、訳の分からない展開となる。
不良にからまれたり、絡まれている女記者を助けたりで、当然、最後には怒り爆発となるのを予測するわけだが……。これ、健さんの定番たふ任侠/ヤクザ映画と全く同じやん!?
クライマックスでは、元上官だか先輩だかの松方弘樹たちとの戦いになるので、余計にヤクザ映画っぽい(^^;)
ヒロインたる薬師丸ひろ子が、三枝未希ばりに、危険を予知したり、へんな映画である。
ミリオタ的には、なぜか富士の演習の場面が物語上では不要に、過剰に出てくる。なぜか戦車が61でも74でもなくパットンなのがおかしい。